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53歳のヒヨッコ選手、卓球の試合に出て、あれこれ思う

卓球の試合。

朝8時45分にとある総合体育体育館へ。年代別の卓球の試合があったのだ。

昨年の6月に52歳にして、初めて試合に出て、かれこれ1年近くになる。年代別の試合も近隣の市がちょこちょこやっているので、三回目になる。

そうなると、

「あ、この前のめっちゃ強い人だ」

「掛け声がすごい人だ」

「悔しがり方がすごい人だ」

「試合中、セットとセットの間、ラケットを台に置いておかなければならないのに、私が手に持ったまま台を離れてしまったことを、本当はルール違反だからダメなのよ・・・と、注意をしながら教えてくれた人だ」

などと、なんとなく覚えている人が増えてきた。

 

試合が始まる前、同じ卓球チームの60代のお姉さま方と練習をした。ラリーが全然続かず、私が下手なせいで、相手の人の練習にならないのでは…と申し訳ない気持ちになったのだが、以前も、その申し訳なさを引きずって焦りまくって負けるメンタルのまま試合に臨んでしまったことを思い出し、ラリーが続かないのはおそらく私のせいなのだが、私のせいだけではないのだ!と、自己暗示をかけるべく頑張った。

 

私の出場する50代の選手は四十数名いて、4名ずつ11のブロックに分けられていた。ブロックごとに総当たりで試合をして、1位から4位を決め、1位と2位は上位リーグ、3位と4位は下位リーグとして、リーグ戦を行う運びらしい。

 

まずは、自分のブロックで最下位にならないことが目標。

50代の試合には三台の卓球台が振り当てられているのだが、11ブロックの全順位を決める試合を3台で行うだけでも、かなり時間がかかるなと気が遠くなった。

 

今まで、大概の試合には強い人もいるが、とりあえず経験してみたい・・・という私のようなヒヨッコ選手も数名紛れ込んでいる印象があった。なので、運が良ければ、私ど同レベルのヒヨッコ選手と対戦して、一回くらい勝てたらいいな・・・という淡い期待もあった。

だが、皆の練習している姿を見る限り、私のように体に軸がない感じにふひゃふにゃしたり、球を追いかけては追いつかずに、バタバタしたりしている選手は見当たらない。これは困ったことになった・・・。

だが、一人だけ、先月の年代別の試合で目撃したちょっと特殊な選手がいた。彼女は岩のようにドカっと立っていて、ほぼ動かない。サーブも、フォア、ミドル、バックと出す位置は変えるけど、一種類のサーブしか出さない。大概の選手は、ツッツキという下回転のレシーブを使ったりするのだが、彼女はツッツキもしない。ちょっとだけ曲がるけれど、上でも下でもない強めな打球ですべてを返球する。一見下手に見えるのだが、彼女のサーブのレシーブも、意外と癖があって返し辛そうなのだ。

「私が唯一勝てる可能性があるのは、彼女だけだろう…」

だが、高校時代も、その手の選手にあたって、ボロ負けした記憶がある。勝てそうだと、勝手に思い込んだ挙句に負けてしまい、苦い気持ちになるあのパターン。

どうせ負けるなら、圧倒的に強い相手に負けたい。勝てるかも…という相手に負けるほど、敗北感や悔しさは増し増しになるのだ。

ゼッケンで名前を見て、調べると、彼女は私と同じブロックだった。1試合目Wさん、2試合目Fさん、3試合目が彼女、Kさんだった。

WさんとFさんは、初めてみる顔で、顔だけ見ると、いかにも強そう…というオーラはなかった。あんまり強くないといいな…負けるにしても、1セットくらい取れたらいいな・・・。

そんな気持ちで、1試合目のWさんと臨む。だが、練習のフォア打ちを始めた瞬間に球の圧が強く、自分より段違いに上手いことがわかった。

そして、1セット目。なんと、11―0で取られてしまった。

私が弱すぎるのか、相手が強すぎるのかわからないが、0点で負けたのは初めてで、衝撃を受ける。2セット目と3セット目はなんとか1点ずつとれたが、どちらも相手のスマッシュミス。お話にならない負け方をしてしまった。ここ2週間ほど、自分としては随分練習したのだが・・・。きっとWさんは私の随分頑張った2週間の練習の数倍の練習を10年、20年単位でやってるのだろうなぁ・・・。試合が終わった後、お互いのラケットラケットを合わせて、「ありがとうございました」と、挨拶をする慣わしがあるようなのだが、Wさんの私に対する挨拶は、本当にそこらへんの虫に対するような、決して見下げるわけでもなく、存在としてカウントしてさえいない・・・という感じであった。

 

Fさんとの2試合目も、3-0でストレート負け。だが、こちらは11―6,11―3、11-5という、レベルは違うけれども、最低限、試合の体はなしていた気がした。サーブも、下回転のキレているサーブの後、無回転のロングサーブを出して、ミスを誘う・・・という試みがうまく行った瞬間もあった。それでも、やはり相手のスマッシュミスで得た得点が多かった。でも、ずうずうしいことを言わせてもらえば、自分がこの先頑張って少し強くなるとしたら、手の届く範囲内のような気もした。

 

そして、とうとうKさんとの3試合目になった。前回、Kさんを目撃していたことが、今日のこの試合のために伏線のようにさえ思えて来た。

ここをどう乗り切るかが、今後の卓球人生?いや、今後の人生にもかかわってくるような気もして来た。

実は、この試合の前に、KさんとFさんの試合を見て、その後、KさんとWさんの試合は、審判もやっていた。

Kさんは、Fさん相手には1セット目と2セット目は7点と、私よりも取っていたが、3セット目は2点で、ストレート負けしていた。そして、Wさん相手の試合でもストレート負けではあるものの、1セット目と3セットめは1点、2セット目では2点と、私よりも点を取っているのだった。

Wさんとの試合の最中、彼女は

「こんなのいつもの私じゃない!」

「球が見えてないんだよ!」

「ああ~、まけちゃうよ!やばいよやばいよ!」

と、ぶつぶつ呟いていた。

「いつもの私」という言葉がすごく気になった。

Kさんの「いつもの私」とはどのような状態なのだろう。彼女が私との試合で「いつもの私」になったら、私は負けてしまうのかもしれない。

 

Kさんとの試合の前に、3回フォア打ちの練習をする。やはり、Kさんの球は打ちにくい。普通に打つと、オーバーしてしまう。回転があまりかかっていないのに、勢いが強いので、こちらも余計な回転をかけずに、それなりに強く押し出すように打つか、いいタイミングをとらえて、きちんと下回転をかけて返すのがよいだろう・・・と、戦法を立てた。

ジャンケンで負けて、Kさんが最初にサーブ権を取った。カット(下回転)でレシーブしようとしたが、二本ともレシーブを失敗し、一気に二点取られてしまう。彼女のサーブはやはり返しづらい。私は下回転の短めのサーブを出す。彼女も二本ともネットに引っ掛け、レシーブミスをした。次の彼女のサーブもカットをしようとしたが、失敗したので、次は普通にはじくように打ってみると入った。だが、彼女も打ち返してくる。なんだかよくわからないラリーがだらだら続くようになった。強く打つとKさんは、結構な確率で打ち返してくるので、中途半端な強さでラリーを続けるほうが、私の得点になることがわかった。1セット目は11―8でなんとか私が取ることができた。

大体彼女の傾向が分かったつもりになり、次はもっと点を押さえて取ろうと思ったのだが、2セット目は、7-11で私は負けてしまった。やばい・・・このまま、負けてしまうパターンになってしまうかもしれない。冷静になって考えてみると、私は勝ち急ごうとして、いつの間にかだらだらラリーを続ける戦法をやめてしまっていた。そして、打たれたら、こちらも躍起になって打ち返していた。焦った気持ちのまま打ち返していたせいか、いつもだったら入るような球も全然返せなくなっていた。ここは、根気よくゆるい球を丁寧に返してだらだらラリーを続けようと、再度心に決めた。最初はKさんがリードしていたが、丁寧に緩い球を返し続けたら、彼女の方が焦って打ち込んでミスをするようになった。それでも、こちらがリードすると、彼女は追い上げてきた。3セット目はなんとか絶対に負けたくない!勝ちたい…という思いだけで、11―9で逃げ切るように3セット目を取ることができた。4セット目も油断できない・・・と、思っていたが、彼女は急に勝つ気がなくなったのか、ここはあっさり11―5で取れたのだった。

でも、勝利を喜ぶ気持ちには全然なれなかった。負けなくてよかった・・・という思いだけだった。よくわからないのだけれど、卓球だけではなく、あの局面で踏ん張れるかどうか・・・が、人生全般に関わっているような気がしたのだった。そこで踏ん張れない自分に会わないですんで、本当に良かった。

Kさんも「いつもの私」になれずに意気消沈しているかもしれないが、私にとっては、なぜなのか、理由は全くわからないが、今後の自分の存続に関わる局面になってしまっていた。

「助かった・・・」

下位リーグは、時間短縮のため、2セット先取した方が勝ち・・・というルールで進み、アッという間にストレート負けをした。相手のTさんは、その前に別のAさんという選手と対戦してぼろ負けするのを見ていた選手だった。Aさんとは、私も昨年の10月に一度試合をしたことがあった。本当に強い選手で、私はどのゲームも1、2点しか取ることができなかった。当時の印象では、近隣の市の50代の中では1,2位を争う強さだと思っていた。そのAさんにぼろ負けしていたTさんではあったが、明らかに私よりベテランなのはわかった。それでも、1セット目では4点しかとれなかったのが、2セット目では9点も取れた。自分としてはまあ、健闘したのではないだろうか。

 

そして、Tさんに勝って上位リーグに進んだAさんは、リーグの一戦目で私が今日一番最初に試合をしたWさんと対戦していた。そして、Wさんにストレート負けをしたのだった。Wさん、最初は全然強そうに見えなかったのだが、私が最強と思っていたAさんより、圧倒的に強かったのだ。後で結果発表を見て知ったのだが、Wさんは50代女子の部門で優勝していたのだった。

「そりゃ・・・0点とか1点とかしか取れないわけだよな・・・」

 

試合後、Wさんと挨拶をした時のことを再度思い出した。目の前にいるのに、一切視界にはいっていないかのような表情だった。

なるほど・・・戦国の世なら、武将が足軽の死体を見るような感じだったのだろう。

10月に試合をしたWさんは、挨拶の時には目を合わせてとりあえずは微笑んでくれたのだが・・・。

 

自分の試合を待っている間、他の選手の試合で飛んできた球を拾って渡すことが多々あるのだが、そういう時に、凄く丁寧にお礼を言う選手と、とりあえずお礼だけは言ってるけど、大分心無い選手と、お礼をいうどころか、こちらを見もしないで球だけ無言で受け取る選手がいる。

絶対とは言えないが、見もしないで無言で球を受け取る選手は、大体すごく強い。

礼儀のある無しではなく、それだけ集中しているのだろう。

私など、お礼を言うなと言われても、言わないことに耐えられずぺこぺこ頭を下げてしまう人間なので、逆に一切お礼など言わない人の方が清々しくてカッコいいようにも思えてしまった。本当に強かったり力があったら、とりあえずいい人に思われようとすることに余計なエネルギーを使わなくなれるのかもしれない・・・なんてことを考えた。

 

それにしても試合は練習よりも、動くわけではないのに、かなり疲れる。

ここ2週間、真面目に練習をしたせいで、股関節や座骨の調子が悪くなっていたのだが、帰りは普通に歩くのもままならなくなっていた。足を引きずりながら帰る。

来週は、少しメンテナンスをしよう。強くなることより、やり続けられる体でいることが、やはり一番だ。

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