不登校の館
昨日、プン助の担任の先生から、電話があった。
「明日、3時間目くらいから登校するように言ってほしいのですが…」
とのこと。
聞けば、5時間目には年に一度のスポーツテスト。6時間目には修学旅行の班決めがあるとのこと。スポーツテストは1,2年の時はひどいものだったが、3年生くらいから活発になり、目に見えて能力が向上していた。それがうれしくて楽しみにしていたのだが、5年時は全く登校せず、結果はすべて斜線。6年時ではなんとかテストくらいは受けて欲しいなと思っていた。修学旅行は6月後半にある。だが、今の様子を見ていると、旅行も行かないのではないか・・・という気もしている。
「プン君は3時間目から登校すると約束はしてくれたのですが、それが無理でも5時間目のスポーツテスト、それも無理なら6時間目からだけでも登校してほしいんです。それも無理だとなったら、6時間目、班決めだけでもオンラインで参加してほしいので、ご協力お願いします」
「…わかりました。なるべく給食からだけでも行くように、伝えます」
そう言ったものの、全く自信はなかった。ご協力できるものならば、したいのだが・・・。
朝、5時に起きた時点でプン助は起きてゲームをやっていた。ゲームと動画の時間併せては一日3時間までプン助と旦那さんが決めていたのだが、早起きした場合は7時までの間は、その3時間にカウントしない…という変則的なルールが生まれていた。前はそれで早起きができるようになったのだが、だからと言って登校するわけではないので、ここ最近、結局7時になると二度寝をするというおかしな事態になっていた。二度寝は無し!と、いうルールも加わったのだが、「今のは二度寝じゃない、目をつぶっていただけだ」「いや二度寝だ!」という不毛な口論もセットで起き、疲れ果てて二度寝も8時半までは許容する…というダブルスタンダードな状況に陥っている。当然遅刻は当たり前のことで、給食前に登校したら、「頑張ったな」みたいな感じなのだ。
そんなプン助を日々みていたことと関係あるのか、昨年まで一人だけ早寝早起きをして、きちんと登校していたニンタマが、今年の1月くらいから、熱がある、ふらふらする・・・と、学校を休み始め、いろいろ調べた結果、起立性調節障害と診断される。
ニンタマが、普通に登校していたので、それまで、どんなにプン助が休んでも遅刻しても、それはプン助個人の特性・・・と思っていられたのだが、起立性調節障害と診断を受けようとも、ニンタマまでもが、休むようになってしまうと、やはり親に問題があるのではないだろうか・・・と、いう気分にもなって来た。
昨年度から、小学校も中学校も親がスマホアプリで、体温を毎日入力し、遅刻や欠席もアプリに入力することになっている。ニンタマが寝込んでいても、体温を測って、今日は登校できそうか、遅刻の感じなのか、欠席するのか、8時頃までに確認しなければならない。
「行けるかわからない」
と、言われると、なんて入力をしていいのか、とても困る。ニンタマの欄には、遅刻と入力をして、
「今日も頭がふらふらしているようで、起きられないようです。行けたら行くと言っていますが、欠席になるかもしれません。すみません」
といった文面を、毎日微妙にアレンジして、送信する。
プン助の欄には
「朝、起きていたのですが、まだ行く気力がわかないようです。すみません」
「昨晩、なかなか寝なかったので、今、どんなに起こしても起きる気配がありません。遅刻になります。すみません」
「今も、押し入れにこもって声掛けしても、返事をしないので、多分遅刻になるかと思います。すみません」
みたいな内容を、ローテーションで送信。
淡々と送信していたつもりだったのだが、毎日確実に「すみません」という謝罪を二件入力し、ほぼ毎日、担任の先生から、電話がかかってきて、「すみません」を繰り返していると、思った以上に、すり減るようだ。
「すみません」を「こんにちは」と、同じつもりで言えばいいのだ!と、切り替えたり、いい匂いのアロマオイルの匂いでリフレッシュしたりが欠かせない。
仕事をするときなど、不登校の館から脱出して、明るい気持ちで取り組んだりするのだが、先生からの電話で、5時間目までには登校させねば…というミッションができてしまい、今日は逃げるわけにもいかない。
30分置きに、プン助に
「先生と約束したんでしょ?」
「給食は食べるんだよ」
「スポーツテストの結果、ママ楽しみなんだけどな」
「たまには、給食くらい食べたら?」
などと、声掛けするが、ほとんど無視をされる。
次第にこちらも苛立って来て、
「なんで無視するの?」
「返事くらいしてよ、いくらなんでも失礼だよ」
「給食費払ってんだから、昼は給食食ってくれよ」
「そうやって、約束をやぶって、信頼を失い続ける人生を、自ら選択しているわけだね、君は」
「無視すんじゃねーよ!腹立つなぁ、もう!」
「そんなに一緒に住んでいる人をないがしろにするんだったら、もう無理だからさ、15歳までは面倒みてやるけど、あとはこの家出て一人でなんとかしろよ!もう、知らねーからな」
と、徐々に激しい言葉になって行ってしまう。
不登校の館から脱出するのは、自分がこの状態になるのが、嫌だということもあるのだった。同じ空間に居続けると、見たことのない鬼のような新キャラの自分が出てきてしまうのだ。
プン助は、時折、うなり声を上げる。ああ、先生から無理なミッションを授けられてしまったせいで、仕事は捗らないは、鬼キャラが出てくるは、プン助もますます意固地になってしまうは、悪循環になってしまったじゃねーか。もしかすると、私が脱出した方が、プン助の精神状態も悪化せずに、登校できたのかもしれない。
そんなこんなで、結局、昼になってしまう。
私が、奥の部屋にこもっていると、プン助とニンタマは楽し気に、昼食を勝手に作って食べている。覗いてみると、ニンタマは制服を着ている。
ニンタマの遅刻の連絡を入れた後、実際に登校したことは殆どないので、「登校する気になったんだ」と、少しだけ明るい気持ちになる。
だが、13時直前に急に、お腹を押さえて私のことろにやってきて、
「やっぱりお腹が痛いから、欠席にする」
と、報告に来た。
本来なら「大丈夫?」と、心配するべきなのだが、先ほどまでプン助ときゃいきゃいはしゃいでいた声が聞こえていたので、痛そうな顔つきまで、わざとらしく見えてしまう。
「あ、そう・・・。で、なに?」
と、不機嫌な対応になってしまう。
その勢いで、プン助に「スポーツテスト、行きなよ!先生と約束したんでしょ?約束したのに、行かないかったらウソつきになっちゃうよ!」
と、きつい口調で注意しに行ってしまう。
「先生は、そう言ってるけど、約束はしてないよ。それに僕は、元々スポーツテストあんまどうでもよかった」
というではないか。
カーっと頭に血が上る。だったら、なんで、昨日、そんな約束はしてない、僕は行きたくない!って言わないのだ!昨日じゃなくてもいい。今朝5時から13時過ぎまでの間、一言もそんなこと言わなかったではないか!
ギャーっと叫びたくなる。だが、冷静な自分もいた。
そうだった・・・昨日、先生から電話がかかって来た時点で、こうなることはわかっていたではないか・・・。本当は、こうしかなりえないことを、わかっていたではないか・・・。私がどんなに良い言い方をしたり、良い対応をしたとしても、(全くできてはいないが)プン助の中で、これは決まっていることが、私はどこかでわかっていたではないか・・・。プン助は一度だって、前向きな返事はしなかった。行かないのはわかっていた。私はただ、威圧したり、プレッシャーをかけたりして、「行く」という言質をとって、言うことを聞かせようとして、失敗しただけなのだ。
・・・徒労感。
「修学旅行も、行きたくないの?」
黙っているプン助。
修学旅行とか、運動会とかを楽しんで参加してほしい・・・というのは、ただの親のわがままなようにも思えてきた。自分がそこそこ楽しんで良い思い出があるような行事に参加しないのは、凄い損失のように思っているだけでそうではないのかもしれない。修学旅行を楽しまなかったり、拒否をする子がいたって、別に構わないのだ。それが困るとしたら、他の親たちと話すときに、全く話がかみ合わず、孤立感を覚えるというだけのことだ。ならば、孤立感を覚える場所に参加しなければいいだけのことだ。
そう思いながらもイライラが収まらない。
「こんなことなら、ママ、外に仕事しに行けばよかった。プン助のせいで、全然仕事がはかどらなかったよ」
言わなければいい余計なこととわかりつつも吐き出さずにはおられない。
「人のせいにしてるけど、それはママの個人の問題でしょ!」
正論を返され、ますます頭に来る。
すごすご奥の部屋に逃げ帰る。
スポーツテストのある5時間目が終わり、どうせ6時間目も、もう無理だろうと、オンラインでつなげようとするが、「6時間目にはいくから」とタブレットを抱え込んで、私に触らせないようにするプン助。
いつものように最後の15分くらいの登校をするのでは、班決めに参加できない。今すぐ行くか、オンラインでつなぐかしないと・・・と、説得するが、唸り声でこちらを威嚇するプン助。嫌になって、奥の部屋で作業をしていると、担任の先生から電話。
「説得していますが、学校行くと言いながら、なかなか行く気にならないようで・・・」と、へどもど言い訳をすると、プン助に替わってほしいと言われる。
先生「プン君、今から決めるから、すぐに来るか、オンラインで参加するかどっち?」
プン助「(聞こえないくらいの小声で)行く」
私「行くって言ってます」
先生「どのくらいで来られる?10分で来られるなら待つけど」
小さくうなずくプン助。
私「10分で行ける?」
プン助「(小声で)行くって…」
先生「どうする、プン君」
私「行くそうです」
先生「じゃあ、待ってるから、すぐ来てね」
電話が切れても、しばらくプン助は寝転がっている。先生がすぐ来てねと言っているのに、寝転がっている姿に気が狂いそうになる。
だが、まもなく
「ああもう~~~~~!!!」
と、叫び、プン助は面倒くさそうにランドセルを背負って、登校したのだった。
仕事がはかどらなかったが、15時から体育館で卓球場が解放されていて、人と約束をしていたので、体育館へ行く。全然卓球の気分ではなかったが、やはり体を動かす効果はすごい。
くさくさした気分は洗い流され、すっかり良い気分になり、帰宅した。
プン助はとうに下校して、遊びに行っていたが、旦那さんが、
「ああ、やっぱ、学校つまんなった!最悪だよ~~~!」
と、怒鳴りながら戻って来たそうだ。
夜、聞いてみると、
「面白くないのはいつものことだけど、ママが嫌なことばかり言うから、学校でも、誰とも話す気分になれなくて、ずっと気分が悪かったんだ!ママのせいだからね」
とのことだった。
「本当?ママはプン助のせいで、一日気分悪かったけど、卓球やったら、気分よくなったよ。プン助も、ママのせいで気分悪かったり、学校でつまんなかったら、友達と話したりして気分よくすればよかったじゃん」
と、言うと、
「ママは、そういうので気分よくなるかもしれないけど、僕はならないの、
一緒にしないでよ」
とのことだった。
いちいちごもっともなことを言うプン助に今日もタジタジだった。
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