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500円で揉める姉弟

滋賀県、二日目。

中々宿題をやりたがらずのたうち回っているプン助をなんとかその気にさせ、午後からカラオケボックスへ行き、溜まった作業をやる。

 

気が付くと、プン助から、3件も着信があったことに気付いて、折り返す。

「何時頃帰って来るの?」

とのことだったので、夕方帰ると伝える。

 

その後、16時頃、今度はニンタマから着信。

用件を聞くと、

「プン助と揉めているから、早く帰ってきて」

とのこと。

「どうせ、タブレットとスマホの奪い合いとかでしょ」

「違う。いいから早く帰ってきて」

 

お義母さんがトラブルを一手に引き受けていたら申し訳ないので、作業を中断して家へ戻る。

 

何があったのか尋ねる。ニンタマとプン助が互いの言い分を喧嘩しながら訴えて来る。

その日は図書館へ行く予定にしていたが、結局行かず、暇を持て余していたニンタマが、近所の小高い山の公園へ遊びに行きたいとプン助を誘ったが、プン助は行きたくないと言い、お義母さんが、「お姉ちゃんだけだと危ないから、プンちゃんついて行ってあげて」とプン助に頼んだ。それを受けて、プン助が「ニンタマが500円くれるならいいよ」と、言ったことに端を発したらしい。

一度は、「わかった」と、了承したニンタマだったが、玄関を出た途端に

「やっぱりいいや」と、プン助の同行を断ったらしい。

だが、プン助が約束は約束だと、公園までついて行ったらしい。

「コイツどこまでも、追ってきてキモイ!」

「お前が、約束を破ろうとしたからだろ!500円寄越せ!」

「ついてこないでって言ったのに、そっちが無理やりついて来たんじゃん」

「俺は最初は行きたくないって言ったのに、そっちが付いてきてって言ったから、仕方なしに出かけたら、急にやっぱいいって言って!嘘つき!」

と、掴みかからんばかり。

「うーん、そもそもついて行くから500円っていうのは、ちょっとどうかと思う」

と、私が言うと、

「そうよ、それはよくないって私も言ったのよ。プンちゃん、お金でそういうのはダメって言ったんだけど」

と、お義母さん。

「前にコイツだって、500円取ったことあるんだから!俺の練り消し探してって言っても探してくれないから、500円あげるって言ったら、探して、それで500円取られたことがあったんだ!」

練り消し?練り消しってあの、キッタナイあれ?のことか?

 

夏休み前、プン助が学校へ行かず暇だ・・・と、家でごろごろしながら、紙を鉛筆で塗りつぶしては、消しゴムで消してまとめて作った黒いタマっころみたいなヤツを、

「見て見て、俺の練り消し!」

と、自慢してきたことがあった。

こちらからは、何の価値も見いだせないものであったが、大事そうにしていた。だが、往々にして、そういうものを大切に仕舞ったりせず、常に手に取って眺めたりして、良くなくしてしまい、無い!無い!と、大騒ぎする

案の定、その練り消しを失くして、「無い!探して!」と、私やニンタマに頼んで来た。

こちらは、出かける直前だったりして、その騒ぎをBGMのようにして支度をしていたが、確かにニンタマに「500円あげるから、探して」と、頼んでいたような気がする。

そして、ニンタマが

「マジで?」

と、目を輝かせて探していたような・・・。

「あれ、結局練り消し、見つけたのニンタマ?」

「そうだよ、それで俺は500円を渡したんだ!」

そこの記憶はないので、私が出かけた後のことだったのだろう。

「ごめん、あの時、ママはちょっと出かける支度で、慌ててたから何も言わなかったけど、500円あげるから、探してとか、500円くれるなら探す・・・とか、よくないなって思った記憶はある。あの時、注意すればよかったんだけど・・・それは、あの時言わなかったママが悪かった、ごめん。でも、とりあえず、これからはそういうのやめて」

「だって、コイツ、500円あげるとか言わなきゃ絶対探してくれない!ケチだから!」

プン助は涙ぐみそう。

ああ・・・困った、どう納めればいいんだ。全然わからない。

しかし、あのキッタナイ練り消し・・・はプン助にとって、500円払ってでも探して欲しいものだったのか。

消しゴム自体の値段はせいぜい100円程度なのだが、鉛筆で紙を黒く塗りつぶして、それを消して、カスを集めて、手塩にかけて育てた練り消しなワケか・・・。

それにしても、やはり500円払ったことは痛手で、取り返したいと思っていたのかもしれない。

取り返せると思って、公園について行こうとしたら、「やっぱいい!」と言われて、凄く腹が立ったのだろう。。。

気持ちは凄くよくわかる。

 

でも、プン助は頻繁にものをなくし過ぎるのだ。なくすのは仕方がないとしても、自分ではろくに探さずに、人に「探して探して」と、1日10回くらい大騒ぎをする。

 

私がそもそも物をなくしすぎる人間の癖に、モノを探すのが異様に苦手なタイプなので、恐らく私の遺伝なのだ。ただ、私は探して探して!と言って顰蹙を買う方が面倒だったり、また失くしたということが周囲にバレるのも嫌なので、モタモタしながらも嫌々自分で探す。そして、結果的にそのモタモタした姿を見かねた周囲の人が探してくれたりはするのだが・・・。

50歩100歩ではあるのだが、どの道周囲の人に探してもらうハメになったとしても、もう少し自分で頑張って探してくれれば…と、願ってしまう。だが、今のプン助にとっては、それすらもとても苦痛なことなのかもしれない。

 

ニンタマにしても、毎日何かを探してくれと言われるのは、嫌であろうし、自分は毎日親に言われたことをある程度やっているのに、プン助は全然やらずに、許されていて、普通に登校しただけで褒められているのを見て、不公平に感じているに違いない。

 

「とりあえずさ・・・今後は、お金あげるから何かしてっていうのは、やめよう。今までのはしょうがないけど。あとさ、ニンタマも、何かをお願いしかけては、こっちがその気になると、やっぱいいって言うの、結構多いと思うんだ・・・、あれはやっぱり、された方は嫌な気持ちになるからさ、ちょっとそういうの気を付けたほうがいいよ」

ニンタマはブスっとした顔で目も合わさずではあったが、一応「はぁい」と、答えた。

 

プン助はまだ、500円に固執していて、ニンタマからか私からか、どちらでもいいから500円回収できないか、粘っていた。

 

だが、その後、ちょっとした事件が勃発。

ニンタマが

「習い事のダンス教室の入館カードを失くした…多分、公園に行った時に落としたんだと思う・・・」

と、泣きそうになりながら、今から探しに行くと訴えて来た。入館カードは、スマホケースに差し込んでいたらしい。

ニンタマは私とプン助よりも1日早く東京へ戻って、習い事へ直行するのだが、その際、カードが無いと入れないらしい。もう、当りは真っ暗。公園はかなり鬱蒼としている。本来ならば、明日明るくなってからの方が良いのだが、ニンタマは小さいミスでも凄くストレスに感じるタイプ。とりあえず懐中電灯を持って、一緒に探しに行くことにした。

「気を付けて行ってらっしゃいね」

と、お義母さんに送り出され、

虫よけスプレーを全身にふりかけ探しに行くと、門から1メートルもないところに、カードらしきものが落ちていた。

「あった!良かった~~~~!」

と、家を出てから30秒くらいでトンボ帰り。

公園は山になっていて、一周するだけでも結構な距離なので、正直一時間以上はかかると覚悟していた。見つからないにしても、一時間探せば諦めもつくだろう…と思っていたのだが、まさかこんなにあっさり見つかるとは・・・。私が戻って来た時にどうして気付かなかったのかも不思議だが・・・。

だが、その騒動のおかげで、プン助も500円の件はなんとなくうやむやになったというか、旬の出来事から押し出され、今更言い出しにくくなったのか、終わったことのような雰囲気になったのであった。

 

 

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