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2022年3月29日 苗場スキー旅行②

苗場スキー旅行3月29日②

ちょっと足慣らしした後、子供らは、早々にプリンス第2ゴンドラに乗りたがった。

私が鎖骨を骨折した大斜面があるコース。7,8年前はノンストップで急げば5,6分で滑り降りることが出来たが、股関節の調子が悪化してからは、15分かかるようになっていた。雑に滑って怪我をしたくない…というだけではなく、心肺機能的にも息が切れて飛ばせなくなっていた。旦那さんも、舞台で何度も膝を痛めているので、無理はできない。

「ニンタマとプン助だけで行って来い。俺らはこっち(下の緩いリフト)でのんびり滑るよ」

旦那さんがそう声掛けしてしばらく別行動。

暖かくなって来たので、雪は緩んでいて板は走り辛かったが、溶けて柔らかかったので、転んだとしてもダメージは低そう。旦那さんとリフトに乗っていると、カラフルなウェアを着た中学生くらいの少年が絶叫しながら、滑り降りて来るのが見えた。お尻を突き出して、思いっきりボーゲンスタイル。怖さと楽しさが入り混じっているのだろう。

「プン助も、前はいつも叫びながら滑ってたよな」

などと、懐かしい思い出を語りながら数本滑ると、下の緩いコースでは物足りなくなって来た。

「よし!ゴンドラに乗ろう!」

そこで、子供らと合流。

吹雪きとかアイスバーンの時は地獄のように感じるコースだが、この日は割と楽な状態だった。しかし、数年前まではいつも先頭を滑って、皆が中々降りて来ないのを、ジリジリしながら待っていたというのに、今は私が最後尾。たった数年でのこの凋落ぶり…。皆が上手になったということなので、嬉しいことではあるのだが、少し惨めさも感じる。

ニンタマは私よりも身長も体重も上回っているが、板はジュニア用の板。私の板の方が本来、走るはずなのだ。だが、あっという間に抜かれてしまう。プン助など、身長も小さく体重も軽いし、板も短いというのに、やはり私をあっという間に追い抜く。旦那さんは、身長も体重も板の長さも私より大幅に上回っているので仕方がないのだが、スキーに対する情熱と気合では私の方が10倍くらい上回っているハズなのだ。私は特に板に減速するような圧をかけている覚えはないのだが、どこか腰が引けているのだろうか…。いや、気にするまい。ビリっけつだろうが、なんだろうが、「皆で滑れているという幸福」を満喫せねば…。

 

数本滑ってゴンドラに飽きた子供らは下のリフトコースの脇にある、ガチで滑りたい人ように作られた、コブ斜面を滑り始めた。

コブ斜面は初級、中級、上級の3コースあった。横から初級コースを滑るプン助を見ていたら、コブの溝に身体半分隠れて全く見えない。初級と言えど、随分深い溝があるようだ。

「初級はね~、一つ一つのコブが大きくて、却って曲がり辛いんだよね。上級の方がボコボコしてるけど、実は滑りやすい。一番難しいのは中級」

と、プン助。

「そうそう」

と、ニンタマ。

ああ・・・私もコブに挑戦したい。ふっとばされてもいいから、滑りたい。でも、ここ数年の私の股関節と腰の不調を考えると、絶対にやってはいけないことなのだ。昨年リハビリを頑張って、やっと無茶をしなければ、そこそこ運動をできる状態まで、もってきたのだ。3年前にも調子がよくなったから…とコブに挑戦し、コブを滑っている途中に筋肉がブチっとなって、まともに歩けなくなったこともあった。股関節や腰の調子が騙し騙しではなく、もう少し改善するまでは絶対コブには入らない・・・と自分に言い聞かせて、スキーに来ている。

そもそも、人間は自分の体が必ず治ると勘違いをしているが、完治などというのはあり得ないのだ。入らない。コブには絶対・・・。

私と旦那さんはコブには入らず、子供らの撮影。

撮影しはじめた途端に、子供らは意識するのか、コースアウトしたり、転んだりし始め、何度も何度も撮りなおした。

「中級が難しいから中級を滑る」

と、言っては撃沈するのを見て、痺れを切らしてしまう。動画を観るときには、どのコースが難しそう…など、全くわからないのだ。なんでもいいから、上手そうに滑っている姿を撮らせてくんないかな…と、雑に思う。

コブコース撮影の為に、何度もリフトに乗っていると、先ほどのカラフルウェアの少年がまた絶叫しながら滑ってるのが見えた。

「あれ?あのコちょっとうまくなってるね」

2時間程前はもっと、腰が引けていたのだ。

「でも、絶叫はしちゃうんだね」

その少年の成長を見た後、コブ斜面を滑るプン助よりも若干年齢が低そうな女の子を目撃。凄くうまいわけではないのだが、気合いが凄まじいのが、オーラとして漂っている。その子は、父親らしき人と二人で滑っていた。父親らしき人も、一級保持者くらいの実力に見えた。

「お父さんがうまいと、習わせなくてもあんなに上手くなるんだなぁ」

と、旦那さん。

私達は、コブ斜撮影を終えると、すぐ下まで滑り降りて、またコブ斜面まで来て…というのを繰り返していたが、その親子は違った。一度コブを滑り降りても、リフト下まで滑り降りず、自力でそのコースの上まで登って、再度降りて来るのだ。

私が小学生の頃は、今よりもリフトは遅かったし、混んでいたので、よく登らされた記憶はあったが、今時あんなに長いコースを上る人達を見たことが無い。

なんてガチすぎる親子なんだ…。

星飛雄馬のスキー版?

などと思ったが、よく見ると、女の子が率先して登っていて、父親らしき人は後からついて行っているのだ。

「嘘でしょ・・・」

「お父さん、大変だな。まだやるのかよ…勘弁してくれよって思ってんじゃないかな」

有名なスポーツ選手になるのは、こういう情熱を持つ子供なのだろうな・・・と思った。いつも、親が全面的にバックアップしているのを、信じられない思いで見ていたが、こういう根性を目の当たりにしたら、付き合わざるをえないのかもしれない。

 

そんな運命に翻弄されてみたいようなされたくないような、複雑な気持ちになった。

 

初日だし、そんなに無理せずに早めにあがろうと思っていたのだが、結局5時ギリギリまでリフトに乗って、滑り終えた。

 

 

素泊まりなので、どこかで夕食を食べなければならない。とっととペンションへ戻り、飲食店を探しに出た。

昨年、宿からすぐのところに、ラーメン、パスタ、カツカレーと、何を頼んでも美味しくて、なおかつ、時々好意でクレープまでデザートで出してくれる、夢のようなお店があり、昨年はそこに毎晩通い詰めていた。ニンタマもプン助もずっと「またあの店に行きたい」と、言っていたので、まずはその店へ向かってみる。だが、closedの看板。店主のものらしき車もあり、奥に明かりもついているようなのだが、営業はしていない様子。

「今日はやっていないのかな・・・」

プリンスホテル内も、昨年よりもずっと飲食店や売店が減っていた。ペンション、ホテル、飲食店が立ち並んでいた通りも、ここ数年はかなり閑散として来ていたが、今年は輪をかけたように閑散度が激しくなっている。あの夢のお店も営業をやめてしまったのかもしれない・・・。

と、その向いに、はっきりと営業していそうな居酒屋Aがあった。

Aは旦那さんと結婚前に、仲間達と撮影に来た時に、二人で飲みに行ったこともある店だった。当時とは代替わりしたようだが、昨年も夢のお店に通い詰める前に、入ったことを思い出した。

それほど美味しくはなかったが、地元の常連さんが通い詰めているような、どこにでもある居酒屋という感じだった。

最悪、どの店もやっていなかったら、ここに来ればいいか…と、ちょっと覗き込んでいたら、中から一人、スーツ姿の男性が出て来た。

「ここ、入るんですか?」

と、聞かれ、旦那さんが

「いえ、まだどこ行くか決めてません」

と、答えると、

「ここ、美味しいですよ!オススメです!」

と、力強く勧められた。

男性はスキー客でもなさそうだし、飲食した後のようでもなかった。

そこまで激推しされるような店だっただろうか・・・と、ちょっとした違和感を覚えた。

 

とりあえず、もう少し先まで歩いて店を探すことにした。

昨年には見かけなかった沖縄料理屋が一軒、焼き肉屋が一軒…。

「ちょっと先に、去年オープンした、こじゃれた居酒屋みたいなのあったよね・・・?」

「あそこは、結構お高めだったよ」

「そっか…」

などと話していると、ニンタマが焼き肉屋の前で立ち止まる。

「ここがいい」

「焼き肉屋かぁ・・・」

値段を見て見ると、牛角とかよりは明らかにお高め。ここで子供らがのびのびと肉を食べたら、ちょっと厳しいな・・・。

沖縄料理店を見る。

謎に他の店には見られない活気が漲っている。

「うーん、でも・・・スキー場に来て沖縄料理もねぇ・・・」

 

本当、店ないなぁ・・・。

諦め半分で、私と旦那さんは、振り返って居酒屋Aを見る。

「大して美味しくないけど、そんなに高くないし、あそこでいっかぁ・・・」

「うん、迷ってる時間が勿体ない」

親が居酒屋Aに向かって歩き出すと、

「え~~~!」

という不服そうなニンタマの声。

「他にお店やってないんだからしょうがないでしょ!」

正確にはやっている飲食店はあったのだが、スキーがメインの旅行のつもりだったので、食事はそこそこ安ければ、まあいいや…という気持ちだった。

 

居酒屋Aのドアを開けると、まだ客は誰もいなかった。カウンターの中に、30代後半の店主と思しき男性が、ちらっとこちらを見るが、無言。

 

無言?

 

それ以上足を踏み入れるのがためらわれるような緊張感に見舞われた。

「いらっしゃいませ」の一言もないどころか、「マジかよ、客来ちゃったのかよ」と、思っているかのような、うっすら敵意のようなものさえ感じる。

 

敵意?まさか・・・普通、お店に入ってたら歓迎されこそすれ、敵意なんか向けられるはずかない。気のせいだ。きっと気のせいに違いない・・・。

 

 

結界が張られたような店内の奥へ進み、「ここ、座っていいですか」と、店主に声を掛つつ(返事はないが)、座敷へ座る。

 

水はセルフサービスだったので、こちらを無視しているかのような店主をよそに、4人分の水をじゃんじゃん運ぶ。

 

やっと、店主がのろのろと、こちらの席へメニューを持って来た。

ラーメン、餃子、おでん、焼き鳥など、品数は多いのだが、切り盛りしているのはこの店主のみ。こんな沢山の品数、一人で作れるのだろうか?

そして、こんなに閑散としている苗場で、いつでもこのメニューを出せるように仕入れても、食材が無駄になってしまうのではないだろうか?

 

昨年の夢のようなお店も、切り盛りしているのは店主のみだった。なので、ものすごくおいしかったのだが、注文してから出て来るのも時間がかかっていた。居心地のいい店内なので、それほど苦にもならなかったが、こんなに居心地の悪い店内で、長々待たされることを考えると気が重い。

だが、注文せねば。

「飲み物は無しでいいか。食べ物注文しよう」

と、旦那さん。

最初の一杯は、必ずアルコールを頼む旦那さんからすると、これは異例のことだ。

何も言わなくとも、私と同じヤバさを感じ取っているのだ。

食べ物…何を頼もうか・・・。

「餃子頼もっか、餃子二人前お願いします・・・、あと、おでんと、ポテト?・・・お願いします」

がっつり食べずに、皆で適当につついて、後は8時まで空いているお土産屋さんで、飲み物を買いがてら、パンとかおにぎりとかカップラーメンでも買えばいいような気持ちから、私はそう言った。だが、

「私、チャーシュー麺」

「じゃあ、バター麺」

「俺はにんにく麺」

と、私以外は全員立て続けにラーメンメニューを頼んだのだった。

 

「ここでそんなにがっつり食うのかい!?餃子、おでん、ポテト以外にラーメン三種。

このやる気の一切なさそうな店主一人で、これを出すのを待っていたら、えらい時間がかかるんじゃないの?大丈夫?皆大丈夫なの?」

 

とも、話すことができず、もどかしい気持ちでいっぱい。

 

だが、私の予想に反して、すぐに餃子とおでんは出て来た。

「え?早い!」

と、見て見ると、見た目的に明らかに冷凍とレトルトだということが分かった。

 

それはそうだ。殆ど客が来ないような中、全部材料を仕込むのなんて、無理だ。冷凍とレトルトじゃないと確かにやっていけないだろう。

しかし、一人前5個の餃子がものすごく小さい・・・。

二皿出て来たが、片方の餃子には焦げ目もついていない。

 

食べてみると、全然おいしくない。

それはそうだ・・・見るからに美味しくなさそうだもの。これが美味しかったら、びっくりだよ。しかし、冷凍とは言え、こんなにおいしくない餃子があるのか・・・。安い冷凍というだけではなく、かなり古いのかもしれない。

一つ食べただけで、二つ目を食べたい気持ちはなくなった。皆はラーメンを頼んでいるので、私は餃子とおでん担当。ちびちび、餃子とおでんを食べる。おでんはおいしくはないとはいえ、真空パックに入っていたからか、古そうな味はしない。

「ママ!たまご頂戴」

「ママ餃子食べていい?」

ニンタマは卵を欲しがり、プン助はがつがつ餃子を食べている。

「餃子、思ったよりは・・・おいしい」

とのこと。

餃子とおでん担当のつもりだったが、それほど食べないうちにどちらもなくなった。

助かった・・・。

子供の食欲は凄い。

 

ポテトフライは、どこでも冷凍を食べなれているからか、皆でがつがつ食べた。

そして、ラーメンがやって来た。

 

ニンタマのチャーシュー麺のチャーシューは脂身がかなり多く、この見た目はおいしい場合は、かなりおいしいが、おいしくない場合はかなりヤバイ。

プン助のバター麺は、普通のラーメンに四角いバターが乗っかっているだけのシンプルな感じ。

そして、ニンニク麺は・・・。

「これ・・・ほんとうにまんまにんにくなんですね」

旦那さんがそう言うと、店主は

「はい」

と、だけ言って去って行った。

ニンニク麺と聞いてなんとなく想像していたものは、揚げにんにくのようなものとか、ガーリックプレスで潰されたにんにくがトッピングされているようなイメージだったが、ラーメンの上に、チューブのにんにくをニョロニョロニョロっと絞ったとしか思えないラーメンが来た。

 

家族全員、しばらく無言でニンニク麺を見ていたが、しばらくして無言で各々のラーメンを食べ始めた。

 

「ニンタマ、ちょっとだけチャーシュー麺頂戴」

 

ニンタマから、チャーシュー麺を分けて貰って食べてみる。

 

予想通り、このチャーシューはヤバイ奴だった。チャーシューは結構サービス満点にのせられている。

 

「ママ、もっとチャーシュー食べていいよ」

「もう大丈夫、ありがとう」

ニンタマはもそもそチャーシューを食べ続ける。

旦那さんが、

「俺、辛いの入れちゃうから、辛いの食べられないヤツは今、食べたほうがいいよ」

と、自分のラーメンを子供らに勧める。

子供らはニンニク麺を一口食べて、もうそれ以上食べようとはしなかった。

「私にもちょっと頂戴」

私も、恐る恐るニンニク麺を貰う。

「!!!」

なんだろう・・・確かににんにくチューブの味なのだけど、パンチがありすぎる。パンチ・・・というか、えぐみ?

チューブにんにくもかなり古いのかもしれない。

大量に食べると、一日中この残り香にやられそうな・・・。

店主に聞こえるかと思うと、何も感想が言えない。

旦那さんは、唐辛子や酢、胡椒などをドバドバ入れて、味変を試みながら食べ続けた。

 

そして、プン助のバター麺も貰う。

「お・・・?」

 

決して美味くはないのだが、チャーシュー麺とニンニク麺ほどの、ヤバイ衝撃がない。

麺も味にも何の締まりもないのだが、先ほどの二つの麺を食べた後だと、美味しくさえ感じる。

 

「もうちょっと頂戴」

空腹をとりあえず、ガツンとしたマズさの無いバター麺で満たさせて貰う。

 

やっと、全員食べ終えた。長かった。

一刻も早くこの店を出たい。逃げ出したい。

「じゃあ、そろそろ出ようか」

と、旦那さんが切りだした。私も腰を上げかけた。だが、

 

「僕、もう一皿餃子が食べたい」

 

と、プン助の大きな声。

 

「え?!これから?!」

「今更いうなよ!食べたかったら、もうちょっと早く言えよ」

「ママ、お腹いっぱいだよ。ね、餃子食べたかったら、またにしよう?」

「今、食べたい」

「じゃあさ、東京戻ったら、作ってあげるから」

「今、餃子が食べたいの!お願い!」

「いや、風呂の時間もあるしさ、とりあえずもう帰ろう」

「売店でお菓子とか買って、風呂から出たら食べればいいじゃん」

「僕、どうしても今、餃子が食べたい」

 

嘘でしょ・・・この、おいしくもない…いや、どちらかと言うと、不味い・・・いや、正直言って、糞不味いこの餃子を、食べたいって・・・本気なのか?

 

「とにかく、ペンションに戻ろう」

「お願い、食べたい!」

「いやいや、また明日美味しいもの食べればいいじゃん」

やっと、この店から逃げられると思ったのに・・・もう、一秒だってこの店にいたくないんだよ…分かってくれよ、プン助!

「お願い、食べたい!お願い!お願いします!」

 

プン助は、その場で土下座をしたのだった。

 

何故、こんな餃子の為に土下座なんか・・・。

 

「やめて、土下座は」

「お願い!お願い!」

プン助は座布団に頭をこすりつけている。

 

人生の中で困惑した瞬間グランプリがあったら、1位か2位を争うよう程、困惑した。

この店の餃子が食べたいと言って、土下座をしている人間なんて、おそらくこの店がオープンした数十年前から数えても、初めてであろう。

 

とにかく、ダメだダメだと言い続け、なんとかかんとかプン助を諦めさせ、逃げるように店を出た。

 

店から出た瞬間、ものすごい解放感。どれほど、この瞬間を待ちわびていたか。

明らかにあの店主のというか、店全体を覆う妖気のようなものが漲るヤバイ空間から、やっと抜け出せた!

 

「いや~~~~、ヤバかったね~~~!!!!」

「不味かった~~~」

「いらっしゃいませも言わないとかおかしいよね」

「入った瞬間、『ああ、客来ちゃったよ、来んなよ!』みたいな顔してたよね」

「客が来たら、腹を立てるってどういうことなんだろう!」

「もう、やっと出られるって思ったのに、プン助が餃子もう一皿とか言うから、死ぬかと思ったよ」

「ホントホント」

それまで、言いたい事が何も話せず、まくしたてる私と旦那さんとニンタマ。

その様子を見て、キョトンとしているプン助。

「え・・・そうなの?」

 

そうか・・・プン助だけは、あの店のヤバイ雰囲気を微塵も感じなかったのか。

「凄い奴だなお前」

「あの餃子、本当においしいと思ったの?」

「いや、確かに凄いおいしいって訳じゃないけど、餃子が好きだから・・・確かに、ニンニク麺は不味かったけど」

「ごめんね、店の人がいるから、ママ達がヤバイって思ってるの言えなくてさぁ」

あの息のつまる空気の中、無傷でいられるのも凄い才能かもしれない。土下座のお陰で窮地に追い詰められた気持ちになったが、些細なことにビクビクする身としては、ちょっと羨ましくもあった。

 

その後、お土産物屋で、お菓子やアルコール、牛乳、翌日の朝食になりそうなものなどを買ってペンションへ戻り、風呂へ入り、口直しのように皆でお菓子などを食べて寛いだのだった。

 

しかし、昨年まで、大して美味しくなかったとはいえ、去年は、それなりにカウンターの常連さんがいて、あの店主も時々会話に加わったりはしていた気がする。あの時は他のお客さんもいたので、初見の客に対する素っ気なさも大して気にならなかった。コロナ禍で、どんどん店が撤退する中、ギリギリでやっているうちに、こちらが想像つかないような精神状態になったのかもしれない。

 

そして、忘れていたが

「ここ、美味しいですよ!オススメです!」

と、私達に話したあの男性はどういうつもりだったのだろうか?

あの人のあの一言がなかったら、恐らく居酒屋Aには入らなかった。

 

あの人の一言のおかげで、大して美味しくなかった店だったけど、もしかするとおいしくなったのかもしれない・・・みたいな気持ちが起きたのだった。

※もう、今更すぎて、書くのを断念しようと思ったが3月29日のスキー旅行②を書きました。30日、31日、4月1日まで書くかは気力次第。ここから読まれる方は4月5日にアップしたスキー旅行①を読まれる方が、内容を把握しやすいかと思います。だらだらしていて本当すみません。

 

客足が途絶え、腐っていた店主のお節介な友人が何かと励ましに来ていて、「もういいんだよ」と、やる気をなくしているのに、客が来たら、あいつもその気になるだろう・・・と、私達家族を送り込んでやろうとしたのだろうか?

 

それとも、集金に来ていた取引業者で、糞不味いことは分かっているけれど、客が入らなきゃお金を回収できないと思い、なんでもいいから客を送り込もうとしたのだろうか?

もしくは、実は私達の直前にあそこで飲食をして、あまりに不快な思いをしていて、他の人間も同じ目に遭うがいい・・・との思いだったのだろうか。

 

最早、あの人が、「おススメ」した理由を知る方法はないのだが、気になって仕方がない。

 

その晩は、久々に家族4人で川の字になって寝た。

こういうペンションに宿泊する初日は、大概部屋も部屋に置かれていた布団も、尋常じゃないほど冷えている。布団の中が冷たすぎて、発熱体のようにいつも熱いプン助に、家族全員がしがみつくようにして暖を取って、眠りについたのだった。

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