プン助が交通事故に遭った。
私は、何も知らずに近所の体育館で卓球をしていた。
私の、カットやツッツキが下手くそだと、心配してくださった、素晴らしく卓球が上手なご夫婦が、アドバイスをしてくれ、とても充実した練習をしていたのだった。
さあ、帰るぞと、身支度を整え、卓球のお仲間の一人と話しながら、チラっとスマホを見ると、旦那さんから数件の着信とLINE。
何事か?とギョッとする。
その時点で、最後の連絡から30分以上経っていた。
「プン助」「救急車」「事故」「病院」
などという文字が目に飛び込んできて、読み進めるのも恐ろしく、すぐに旦那さんに電話をかけた。
「〇〇病院にいるけれど、今からタクシーでもいいから来られる?保健証持って来られる?」
出た途端に、切迫した口調で話す旦那さん。
病院に行くことも、保険証を持って行くことも全然可能だ。だが、それよりも容体が気になる。プン助は無事なのか?
「足が痛いって言ってるけど、大丈夫。骨は折れてるかもしれないから、これから調べる…」
状況がよく飲み込めない。
旦那さんは昼頃、仕事へ行ったはずだった。私が卓球へ出かけた14時半ころにはまだ、プン助は家にいた。「もうちょっとしたら遊びに行く~」と言っていたが、身じろぎもせずに動画鑑賞に耽っていたので、このまま見続けて遊びに行けないのではないか?と、思っていたくらいだった。
そうか、あれから遊びに出たのか・・・。
え?でも何故、旦那さんは今、プン助と一緒なのだろう?事故に遭った時は既に一緒にいたのか?それとも、事故に遭った後、誰かが旦那さんに連絡して駆けつけたのか?事故に遭った場所は、プン助の友達の住んでいるマンション前だった。そのマンションには、保育園や学校が一緒の友達が沢山住んでいるし、役員などで一緒だったママ友っぽい人も沢山住んでいる。
事故を目撃して、誰かが連絡をくれるとしたら、どう考えても私に来るのが普通なのではなかろうか・・・。何故旦那さんに?
いや、そんなことはどうでもいい。
骨折してるとかしてないとかの方が心配だ。頭だって打っているかもしれない。
「とにかくすぐ行くよ」
と、伝えると、
「あ、やっぱ来なくていいや。交通事故だから、保険証は今はいいって。家で待ってて。充電切れそうだから、切るね」
と、電話を切られてしまった。
気になる。気になるが、私が病院に行くと、今塾に行っているはずのニンタマが家へ入れなくなる。ニンタマに晩御飯を食べさせたりもしないといけない。
呆然としながら、とりあえず八百屋へ食材を買いに行く。
適当な野菜を買って、帰宅。
帰って野菜を冷蔵庫へ入れようとしたら、私は干しイモを3パックも買っていた。スティックタイプの干し芋。ケーキのようにおいしいと書いてある干し芋。当店お勧め品!!!と、書かれた干し芋。
干し芋は好きだが、いくらなんでも買いすぎだろう。
ご飯を作らなければと思いながらも、心配で作る気にならず、帰って来たニンタマと、干し芋を食べながら、プン助、大丈夫かなぁ?などと話をした。
すると、旦那さんからLINE。
「加害者の人が、明日上司と家へお詫びに行きたいって言っているのだけど、俺は手続きで忙しいから、その人に電話してくれないかな?」
加害者の方の電話番号が書いてあった。
困惑。
プン助の状況がわからないまま、こちらから加害者の人に電話をかけて、一体どんなスタンスで何を話せばいいのか?しかも上司って?
あくまでも勝手な推測だが、
「お宅のお子さんが突然飛び出してきて、避けようがなくて…。でも、いくら飛び出しだとは言え、お怪我をさせてしまったのは、本当に申し訳ありません」
みたいな事を言われるのではないだろうか?はっきりはわからないが、プン助が飛び出した可能性は極めて高い。
だからと言って、プン助の話も聞かずに、飛び出し前提で話をするのは、イヤだった。
こちらの応対次第では事実の確認もないまま、飛び出したということが既成事実になってしまうかもしれない。
大体、プン助が飛び出しであったとしても、何故こちらから電話をしなければならないのだ…。そして、家に来るとは?菓子折り等を持って、挨拶に来るつもりかもしれないが、玄関先で挨拶だけして返って貰う訳にも行かないだろう。
家へ入れて、少なくとも30分くらいは話をしなければならないだろう・・・。
お茶とか、お菓子とか、出すのか?
出すのも変な気がするが、出さないで、出した方がいいのかな?いや、出さなくていいよね…などとモヤモヤしながら、30分くらい通すのも精神的にキツい。
そして、プン助が元気そうだったら、「良かった、大したことなくて」とか、言われてしまうかもしれない。
とても気が進まない。
とりあえず、母に電話。
私が小学1年生の時に交通事故に遭ったこともあり、当時の母は、まだ30代前半でちゃんとした対応が出来なかった・・・と、今でも悔いているのだ。まず、母の意見を聞こう。
「まず、相手が言ったことすべてに、ちゃんとした返事をしてはダメだよ」
とのことだった。
「飛び出しでした」と、言われたとして、「そうだったんですね」とか、答えてはならず、「はぁ」「ああ」みたいな感じで、相手の言ったことに納得した態度を取るなということなのかな?
「お茶なんか出さなくていい」
とも、言っていた。
言われていることは分かるが、基本へこへこして愛想がよくなってしまうタイプの私は、会って話してしまったが最後、相手の言ったことを納得したような対応をしてしまい、仲の良い雰囲気まで漂わせてしまう可能性がある。毅然として、相手の言う事すべてに、納得した返事をしない…なんてできるのだろうか。
私が自信なさそうにしていると、「Mちゃんに電話して聞いてみるといいよ」と、母。
母の従妹の娘であり、私の双従妹のMちゃんは、3人子供がいて、子育ての大先輩。しかも息子のR君は保険の仕事をしている。Mちゃんに電話をすると、すぐにR君に連絡を取ってくれて、返事をくれた。
事故証明などが取れていれば、加害者の人には会わなくていいとのことだった。
「こんな時期ですし、わざわざお時間取って頂かなくても、後は保険会社の方とやりとりをします…で大丈夫だよ」
とのことだった。
「相手に家に来られたって、友香だって時間とられて大変じゃん。それに、上司と来るって、きっと配送とかの仕事で車乗ってて、その上司が来るってことでしょ?事故起こすと保険料が上がるの嫌がって、治療費自費で出しますからって保険でやらないように頼みに来る可能性もあるかもしれないよ!」
実は、私の子供時代の事故の時にも、加害者のおじさんが、保険料が高くなるから、と言って、保険を使わない交渉をしてきたらしい。私は3か月後、急な頭痛と首に異変が起きて、むち打ちと診断され、5日程入院したのだが、その際、加害者の方に事故との因果関係はわからない…と、言い張られて、自腹で入院費用を払うハメになったと、母に聞いた。あの時、世間知らずだったから、全部加害者の言い分を「はいはい」と聞いてしまって、本当にバカだった、と、母。
そうか、そんな海千山千の交渉とかやられたら、私なんて、一溜りもないやもしれん。
いよいよ会う訳にはいかん。
と、知らない番号から着信が来た。
旦那さんのLINEを確認してみると、加害者の方の電話番号と同じだった。
とりあえず、その時には出ず、心の準備が出来るまで待って、こちらからかけ直す。
「この度は大切な息子さんに怪我をさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
加害者という認識が無ければ、いかにも人のよいおばちゃんと言った感じ。
母のアドバイスに従って、「はぁ」「ええ」「ああ」という曖昧な返事を返しながら、会話。
「いえね、やっぱり男のお子さんだから、わーって飛び出してきちゃうんですよね」
出た…!
「飛び出し」というwordが。
緊張が走る。
「はぁ」
「ブロック塀のところから、急にわーって飛び出してきたから、ゆっくり走ってたんですけど、20キロくらいは出てたかな…さすがによけきれなくて…」
「急にわーっと飛び出し」「20キロ」「よけきれなくて」
本当にそうかもしれないけれど、これらの言葉は全て、「自分は悪くないんです。悪い
のは、そちらのお子さんなんです」と、伝えようとするword。危険だ・・・。加害者の方が実際にそう思っていたとしても、このシチュエーションで、やりとりの序章に、被害者の親に、こういう事をわーっとまくし立てるように言う・・・というのは、どうなのだろう。
この人とは、会ってはいけない気がする。きっと、プン助には違う言い分があったとしても、自分の感じたことだけで押し通すタイプ…なのでは?
実際に対面なんかしたら、これらの言葉を連発して、それを既成事実にされてしまう。
「明日の午後、上司が、一緒に挨拶に行きたいって言ってるんですけど、いいでしょうか?」
一人来るだけでも、気が重いのに、上司も一緒?
明日は一日旦那さんは稽古で不在。
旦那さんのいない状況で、家という密室で、加害者のおばさんとその上司という二人に、飛び出し前提で話をされるのは、きつい気がする。
そんな不安とは別に、どんな人なのか確認したい気持ちもあった。ちゃんと対応できる自信があれば、加害者の方には、やはり会ったほうがいいには違いない。
「今は、まだ息子の顔も見てないですし、私としても状況が把握できていないので、まずは息子の様子を見てから、考えたいです」
と、電話を切った。
夕食を終えてしばらくしたら、プン助と旦那さんが戻って来た。
旦那さんとは、何度かLINEで連絡を取っていたが、充電が切れることを恐れて、プン助の状況は殆ど伝えられていなかった。
ニヤニヤしながらも決まり悪そうなプン助の様子を見て、一安心したが、腕やら肘やら足の小指を負傷していて、頭頂部からも血が滲んでいた。比較的綺麗だった服は汚れていて、衿は裂け目が入り、靴下には穴だらけになっていた。
ぶつかった衝撃で靴が脱げたらしい。
「バーンって当たって、ポーンと飛んでゴロゴロって転がった」
と、言っていたが、ボロボロの姿を見て、かなりの衝撃が合った事を実感した。
ポーンと飛んだ時に当たり所が悪かったら・・・もしくは、飛ばないで車輪に巻き込まれたら・・・!
大分ボロボロだけど、よくこれで済んだな…と、思ったら急に恐ろしさがこみあげてきて、とりあえずプン助の実体を確かめるように抱きしめた。
「もう~~~~!気を付けてよ~~~~~!よかったね~、無事で~~~~」
急に泣けてきて、自分でもびっくりした。
プン助に話を聞くと、やはり、飛び出しと思われても仕方がない事はしていたようだ。
「一台車が来たから、それを待って、一台行ったからもう、来ないだろうって、渡ろうとしたら、二台目が来てびっくりした。普通あそこは、一台来たら、二台目は来ないんだよ」
一台来たら、二台目が来ないという説に何の根拠もないのだが、プン助の経験値ではもう渡ってヨシ!と、思ったようだ。
元々、思い込みが強いところがある。
「二台目来ないって思っても、ちゃんと見て確認して!」
いつもはこういう注意に対して、一切聞く耳を持たないプン助だが、さすがに今回は「わかったよ」
と、素直だった。
加害者の人は、警察と救急車を呼んでから、プン助に、
「もう飛び出しちゃダメだよ」
と、言ったという。
子どもの頃、少しでも車にぶつかりそうになると、いつも車に乗っている大人に
「どこ見てるんだ!」「危ないじゃないか」
と、怒られ、自分の命の危険よりも、怒られることの方が怖かった。
だから、自分が小学校1年生で交通事故に遭った時にも、また怒られる!という恐ろしさから、「ごめんなさい!」
と、謝ってしまったことを思い出した。
だが、車から出て来た加害者のおじさんは、私に向かって怒ることはなかった。ホッとした。とはいえ、その後、事故で集まって来た人や、警察や救急の人に対して、おじさんは「飛び出しです!」と、何度も何度も話していたのだった。
「そうか・・・今のコレが、飛び出しってヤツなのか・・・」
と、思いつつもなんとなく、違和感を覚えた。
私が謝ったのは、怒られる・・・という反射的な恐怖心からであり、自分が飛び出したから・・・という意識ではなかったのだ。
誰も私に、事情を聞いたりはしなかった。
事故に遭う前、私はポリバルーンという、ストローの先にセメダインみたいなものを付けて風船のように膨らます代物にハマっていて、近所のお店に買いに行こうと、手に300円を握りしめて、信号のない二車線の道路を渡ろうとしていたのだった。
右見て、左見て、右見て・・・ヨシ!大丈夫…!と、判断して道を渡ったのだが、半分渡り切ったところで、左から車が走って来たのだった。
車も走っていたが、私も走っていた。止まるか、なんとか車にぶつかる前に、走り抜けるか・・・走り抜けられるのか?無理か…?いや、頑張ればなんとか走り抜けられるかも…!
瞬時に色々な考えが頭を巡ったが、私は車より先に走り抜けることを選択したのだった。そして、ものすごい頑張って走ったが、走り抜けることはできずに車にぶつかった。膝にものすごい衝撃があり、そのまま宙に浮かんだ。
なんとなく交通事故=死みたいなイメージがあり、
「ああ、この世とおさらばなんだな…」
と、思いながら、飛んでいる時間がゆっくりに感じられた。
当時、「宇宙戦艦ヤマト」のアニメが放送されていたので、その影響なのか、私の頭の中で、
「さらばじゃ・・・」
という言葉が浮かんだ。
だが、この世とおさらばにはならず、膝から落下した。生きていることに驚いたが、手に握りしめていた300円は、全てなくなっていた。
後で救急車で病院に運ばれて検査したら、私の頭には三つのコブが出来ていた。
打った記憶は一つもないのだが、落下した時に転がったりして、ぶつけたようだ。
そんな風に記憶は曖昧だが、車にぶつかる前に走り抜けられるかもしれない・・・と、懸命に走ったことは加害者から見れば、飛び出しかもしれないが、私にとっては、なんとか生き伸びようとした選択だった。そもそも「飛び出し」という言葉は、車側から見た言葉でしかない。6年しか生きていない浅い経験値で、生き伸びようと自分なりに頑張ったつもりなのだが、「この子は飛び出しだから、この子が悪いんだ」と、鬼の首を取ったみたいに言われたことに関しては、今でも釈然としない気持ちが残っている。
プン助だって、明らかに不注意なタイプかもしれないが、あの道は、マンションが沢山建っている道沿いで、仕事などでよく通るのであれば、子ども通りが多く、あそこが危ないという事は分かっているはずだ。
「もう飛び出しちゃダメだよ」と言ったのが、おまわりさんや、救急隊員だったら、別に気にならないが、加害者の人が跳ねた直後に言うべきではないのではないか?
私が、感じた思いを旦那さんに話すと、
「そうかぁ~、俺達、帰りに明日、加害者の人が来たら、飛び出してごめんなさいって謝らないとな~、なんて話してたんだよ。そうかぁ、それ、ヤバかったかのかぁ~。聞いといてよかったなぁ~」
と、プン助と驚いたように笑い合っていた。
困惑。
え?なんだろう、そのやたらと無垢な反応は・・・。
いや、もしかしたら、私が根性悪すぎるのか?いやいやいや、私だって十分世間的には御しやすい部類の人間なのだ・・・。
それにしても、旦那さんとプン助は呑気すぎるのではないだろうか?
いや、本当はこの呑気さは素晴らしいのかもしれない。
世の中の人が皆、こんなに呑気だったら、それに越したことはないのだ。
だが・・・世の中には、隙あらば自分は悪くない、相手が悪い・・・と、あの手この手を使って、呑気な人をいいようにする人達が山ほどいるのだ。
わからないが、あのおばさんの「形式上、自分は加害者だけど、本当は被害者なの」みたいな謎の押しの強さに押し切られでもしたら・・・。
ダメだ・・・!プン助が、「飛び出しちゃってごめんなさい」なんて、言ってしまったら、私は一体どう対応すればいいのだ。
その上、お菓子なんか頂いてしまったりしたら・・・。
「やった、車にぶつかったお陰で儲けた!」などと、喜ぶプン助の姿が目に浮かぶ。
そんなプン助をみて、加害者のおばさんと上司の人達も、和やかに笑ったりする光景も容易に想像できてしまう。
無理だ…!加害者の人と上司の人の訪問はやはり、断らねば・・・。
再び電話をかける。
「色々考えたのですが、こんなご時世ですし、お詫びをしたい・・・というお気持ちだけで、十分なので、わざわざ来ていただかなくても大丈夫です」
と、訪問を断った。すると・・・
「ああ・・・私はいいんですけど、上司が・・・上司がどうしても、お詫びに行きたいって言っていて・・・あの・・・私が言ってもだめなんで、直接上司に電話して、そう言ってもらえませんか?」
最初、何を言われているのかちょっと意味がわからなかった。
「え?私が直接電話をするんですか?」
「いえね、ほら、私が伝えても、お詫びに行かないとって聞いてくれないと思うんですよ~」
スーパーの買った商品を詰める台の隣などで「今日、寒くなるって聞いてたけど、暑いわよね~」と、いきなり天気の話などをしてくる気さくなおばさんがよくいるのだが、そんな距離感だ。
やっぱり、この人、ちょっと変わっているのではないだろうか・・・?それとも、直接上司に話しても聞いて貰えない程、ブラックな会社なのだろうか・・・?
「上司の連絡先教えるんで、お宅さまから、連絡して貰えませんか?」
私が連絡するのか…え?この人にも上司にも会ったことないのに?この人は上司とはよく顔を合わせているだろうに?変な気がする。変な気がするが・・・この人とやりとりをしている方が精神的にちょっとキツイ。
「わかりました。私の方から上司の方に電話します」
速攻上司に電話を掛ける。
課長さん・・・ということで、応対も先ほどのおばさんよりも、社会的にきちんとしていた。実際のことはわからないが、人間的にも誠意がある感じの応対。
「ウチの社員が大切なお子様を怪我させてしまいまして、誠に申し訳ありませんでした。直接出向いて、お詫びに伺いだいのですが・・・」
こちらが恐縮するぐらい、心のこもった口調で、訪問したい旨をつげられたのだが、
「こんなご時世ですし・・・」
と、先ほど加害者のおばさんに話したのと同じことを告げ、訪問を断ると、「それはコロナで・・・ってことですか?」
と聞かれた。
「はい。あまり、色々な人に会わないようにもしてるんです。本当、お気持ちだけで、後は保険会社と直接やりとりをしますので…」
と、伝えると、課長さんは少しの間、粘っていたが、なんとか訪問の方は諦めてくれた。
血液検査の検査キットなどの運搬をしている業者らしく、事故のあった通りは、いつも使う道だったという。
「飛び出してきたので、よけきれなかった」と言われたことを話すと、
「いや、それは運転側の責任です」
と、課長さん。
現金なもので、そんな風に言われると、避けるのも中々難しいよな・・・自分が運転している側だったら、絶対無理かも?などと、思えたりするのだった。
今後は保険会社を通して、やりとりをしていくということになり、示談に持って行かれるような気配もなく、とりあえずひと段落。
頭を打ったことで、急な異変が無いかしばらく様子を見守る必要はあるが、ホッとした。
肉が見えているような傷もあるので、毎日水洗いして、ワセリンを塗って、傷が乾かないタイプの絆創膏を張る手当が必要とのことで、そちらもちょっと不安が残る。
落ち着いてから、仕事に出かけていたはずの旦那さんが、事故現場からプン助の載せられた救急車に付き添うことになった経緯を聞いた。
仕事が終わってもうすぐ家に着く・・・という時に、プン助のキッズ携帯を使って警察の人から連絡が来た・・・とのことだった。警察の人が、キッズ携帯で「パパ」という名前を見つけ、かけて来たらしい。
雪が降った後だったので、骨折の人などが多く、中々搬送先が見つからず、30分くらい事故現場にとどまっていた間、旦那さんは車中から私に電話をかけたり、LINEを送ったりしてしたらしい。
救急隊員が、「お母さんは・・・いらっしゃらないのですか?」と、聞いた時、やっと搬送先が決まり、私が卓球をしていた体育館前を通っていたらしい。
「多分、あそこで卓球してると思うんですよ~」
と、体育館を指すと、救急隊員の人は
「あ…そうなんですか~」
と、遠ざかって行く体育館を見ながら、微妙な顔をしていたという。
きっと、その時は夢中になって素敵なご夫婦にレッスンを受けている最中だったのだろう。
スマホは、卓球をしている時も、短パンのポケットに入れていたのに・・・。
太腿あたりで、ブルブルしたであろうに・・・。
卓球に夢中で、微塵も気付かなかった。
ああ・・・
本当に、本当に無事でよかった。
とにかく、ありがとうございます。なんだかわからないけれど、ありがとうございます・・・と、色々なことすべてに感謝したのだった。
こんな殊勝な気持ちは、数日経ったら、消え失せるだろうことは、わかっていたが、せめて数日間は、世の中に感謝しておこう。