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白いカプセルの中でじっとする

MRI検査。

10時20分の予約だったのに、何故か10時40分の予約と勘違いして、のんびりしていたのだが、カレンダーに書き込んだ予定を確認して、大慌て。

痛み止めを飲んでいるとは言え、昨日一昨日まで寝込んでいたにも関わらず、駅まで、猛ダッシュ。

徒歩20分くらいの道のりを、一度も歩かずに走り10分で駅に到着。

最初は苦しかったのだが、駅にたどり着く頃には何故かすっきり。

毎日走ると、膝が痛くなったりするのだが、たまに走るのは気持ちがいい。

それでも、10分遅刻。

こんな時、いつもは、「どうしてもっと早く時間を確認しなかったのだろう・・・」「遅れて、検査して貰えなかったらどうしよう?」「非常識だと思われるのではないだろうか?」「私のこういうところがダメなんだ…!」などという思いで頭がぐるぐるして、生きた心地がしなくなるのが常だった。

だが、半世紀生きて来て、こういう性能の自分と付き合うのに、いつも生きた心地がしなかったら大変だと、最近意識的に気持ちを切り替えるようになって来た。

十人いたら一人か二人くらいは、遅れる人はいるはずだ。

病院にとって優秀な患者もいれば、問題人物のような患者も一定数いて、受付をする人にとってもそんな患者は想定内のはずだ。私が生きた心地がしていようが、していまいが、私以外の人にとってはどうでもいいことだ。そして、10分の遅刻くらいで検査が受けられない…などということはあるはずがない。そうなったとしたら、その時考えればいい・・・とりあえず、あのダッシュで私はベストを尽くしたのだ!・・・と、それ以上深く考えないようにして、自己暗示をかけ、堂々と遅刻をしてみた。

いつもは、「すみません、すみません」と、赤べこのようにペコペコしながら、受付へ走るのだが、約束の10分前に来た人かのように余裕綽々とした態度の演技で受付へ行ってみた所、一瞬「ああ、遅刻をしてきた、低ランクの患者ね」という感じの怪訝な表情をされただけで、何も言われなかった。

 

MRI検査専門らしい病院は、そこそこ盛況で、検査の最中に聞こえる、騒がしい金属音がそこかしこに響いていた。

 

軽い問診の後、更衣室で検査着に着替えさせられ、金属性のものを身に着けているか、うるさいくらい何度も確認される。

 

「あ、マスクの中の針金、大丈夫でしょうか?」

「ああ・・・それは、大丈夫です」

 

台に横たわり、小さな白いトンネルのようなカプセルへ押し込まれた。

 

「検査は20分くらいになります。その間、動かないでくださいね」

音から耳を守るためか、ヘッドフォンを装着される。

動かないでと言われると、お尻がかゆくなったり、顔や首やそこかしこが痒くなったりしてしまう。検査が始まる前にあちこち搔きまくったが、その刺激で余計あちこち痒くなったような気もしてくる。

ビービー、やかましい音が鳴り始め、検査が始まってしまう。

もう、動いちゃいけないのか・・・。

動けないと思うと、プレッシャーが襲ってくる。

 

1分もしないうちに動きたくてたまらなくなってくる。

無心になりたい。ぼーっと何か考え事をして夢うつつになれないだろうか?

無心になるにはどうすればいいのだろうか?

そうだ、呼吸だ。

深呼吸をして、気持ちを落ち着けよう。

 

すぅ・・・はぁ・・・すぅ・・・はぁ・・・。

4秒吸って、8秒吐く・・・というサイクルに集中してそれ以外余計な邪念を入れないようにしよう・・・。

しかし、うるさいな。

なんで検査にこんなやかましい音が必要なのだろう・・・。ビービーだったり、ビロビロビロ~だったり、理解不能な不快な金属音と、ヘッドフォンから聞こえる癒し系音楽が混ざり合って、ひと時も安らがない。

 

それでも、もう半分以上の時間は経ったのではないだろうか?

 

と、ヘッドフォンの音楽が途切れ、技師の方の声が聞こえる。

 

「大分画像がブレてるんですよね・・・動かないで頂けますか?」

 

え?全く動いていないんですけど・・・?もしかすると、直前に痒い所を掻いた時、既に検査が始まっていたのだろうか?

 

「わかりました」

 

まさか、今まで動かないようにしていた時間はチャラになって最初からやり直し?またカウントゼロになって20分この状態を続けるの?一瞬パニックになりかける。

いやいや、そんな事を思ってたら、余計耐えられない。

気持ちを落ち着けよう。

 

4秒吸って、8秒吐いて・・・すぅ・・・はぁ・・・すぅ・・・はぁ・・・

 

と、音が鳴りやみ、白いカプセルから出される。

 

あれ?随分短い時間だったけれど、もう検査終わったの?

 

「やっぱり、大分動いてるんですよ!」

 

と、若干怒り気味の技師さん。

 

「え?動いているつもり無いのですが・・・」

 

「呼吸ですかね・・・」

 

え?呼吸???!呼吸しちゃダメなの?

 

「凄い背骨が上下してるんですよ~」

 

「ああ、ちょっと緊張するんで深呼吸してました」

 

「それですね」

「そんな激しくは吸ってないんですけど・・・」

「あんまり息もしないようにしてください」

 

え?息しちゃいけないの?20分も????

 

パニックのまま、再び白いカプセル内へ送り込まれる。

 

とにかく…深呼吸はやめよう・・・。

20分も呼吸をしなかったら、死んでしまうので、呼吸をしないっていうのは無理だが、

 

とりあえず、なるべく呼吸をしないようにしよう。

しても浅い呼吸で、胸まで吸い込まないように・・・。

 

しかし、考えれば考えるほど息苦しくなってくる。

特に閉所恐怖症とか意識したことはないのだが、飛び出して叫んで暴れまわりたくなる衝動にかられてしまう。

水中にいる時など、肺にある酸素量を調節して浮いたり沈んだりすることを思い出し、最小限の酸素で持たせる方法なないだろうかと模索してみる。

 

呼吸の回数を減らし、肩甲骨より下には吸い込まないようにしてみたり。

 

だが、意識すればするほど息苦しくなってくる。

 

なんでこんなに苦しいんだろう・・・。

 

8年程前、腰とは別のことでMRI検査したことはあったのだが、こんなに息苦しくはなかった。

私が神経質になって来たのだろうか?

苦しい。

 

少なく息を吸おうとしてもマスクが顔に張り付いていて、あまり吸えない。

マスク・・・。

 

そうか、マスクだ・・・!

 

このカプセルの中にいる間だけでもマスクを外せばよかった・・・。

マスクのせいで、圧迫感が増しているのだ。

そういえばマスクの針金は大丈夫だって言っていた。

 

よくわからないが、顔は動かしても大丈夫ってことだろうか?

手で、マスクを外すワケには行かない。

顔を動かして、なんとかマスクをずらす試みをする。

百面相のように顔を動かして、なんとかマスクを鼻の下までずらすことに成功。

 

特に注意はされないようだ。

背骨さえ動かなければ、大丈夫そうだ。

 

顔を動かしていると、大分気がまぎれることがわかり、顔を力いっぱい動かし続けることにした。

叫んで飛び出したくなる度に、大口をあけて、声を出さずに

 

「た・す・け・て・た・す・け・て!」

 

と、口を動かして見たり、ひょっとこみたいな顔をしたり。

 

これ、技師さんに見えてたら凄い恥ずかしいな・・・と、思いつつ、体に意識が向かないように、ひたすら顔面に力を入れたり、歯を食いしばったり。

それでも、もう無理・・・限界?!って思った時、

 

ビービーうるさい音が止み、

「お疲れ様でした~!綺麗に撮れましたよ~!」

 

と、カプセルから出されたのだった。

 

良かった。

技師さんも、もう怒ってはおらず労わるような感じで優しく接してくれた。

 

この程度の検査、苦痛のウチに入らないのかもしれないが、私にとって治療や検査を受ける時の苦痛の一つにじっとしていなければならない・・・というものがあるのだと、まざまざと思った。

 

痛みやだるさや吐き気に耐える・・・みたいな事の方が大変だとは思うが、心電図を取る時であったり、歯科医院で治療を受けていたりする時、そして眼瞼下垂の手術を受けている時など、痒い所を掻けなかったり体勢が変えられなかったりに、いつも苦痛を感じていた。うまくぼーっとできる時もあるのだが、意識が過敏になってしまうと、落ち着かなくなって動きたい衝動に駆られて、大変になってしまうのだった。

いつでも、ぼーっと無心になれると良いのだが・・・。

 

全身麻酔は意識をなくす怖さと、覚め際の不快感がきついので、頻繁には受けたくないし、中々かけて貰えるものでもない。意識はありつつも、いつでも瞑想をしているような穏やかな状態に気持ちを持っていける方法ってないだろうか?

 

それを会得できたら、将来いつ病気になっても、大分心構えが楽な気がする。まあ、病気をしないのが一番なのだが。

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