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ウチの荒ぶる神プン助②

ニンタマとのんびり過ごしていると、奥の部屋のドアがバタン!と、鳴った。

 

プン助、起きた?

 

ドン、ドタドタドタ!・・・バーン!

と、激しい音を立てながら、プン助がリビングへ入って来た。

 

「ママ、ひどい!」

 

ニンタマの予想が当たった。起きて来ちゃった・・・。

鬼の形相・・・。

ヤバい、これはアカン奴だ・・・。

寝起きの時の最悪のパターン。

 

そうだった。疲れて寝落ちした後に目を覚ますと、スッキリして機嫌が良くなるどころか、悪霊に憑りつかれたように、不機嫌で周囲に当たり散らすことが多々あったのだ。

幼少時から今まで、何度もその事態にぶちのめされて来た。

何故、忘れていたのだろう・・・。

 

「起こしてくれなかった!!!ママ、ひどい~~~!」

「いや、気持ちよさそうに寝てたからさ・・・」

「ひどい!!!もう、こんな時間だよ!!!」

 

21時だった。

 

一時間半寝ていたことになる。

 

「もう、何もできないよ~~~~~~」

「そ、そんなことないよ!今からだって動画観たり宿題やったりできるって。一時間半寝ちゃったってことは、いつもより一時間半遅く寝ても大丈夫ってことだし」

「何もできない、やりたいこと一杯あったのに~~~~!」

「だからできるって…」

 

プン助の顔はいつの間にか涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。

あまりの剣幕に、何故か言い訳がましくなるダメ親の私。

 

「大丈夫だよ、プン助。どうしたい?今、どうしたい?」

何故か、私よりも母親らしい感じで優しくプン助を宥めるニンタマ。

だが、プン助の泣き声はどんどん大きくなる。

「水飲むか!プン助」

 

こういう時には水を飲ませるのが一番だ。

 

いつもは「水持ってきて~」と、言われても、「自分でいれなさい!」
と、却下するのだが、大物俳優の付き人のようにそそくさと、水を持ってきてやる。

だが、中々飲もうとしない。仕方が無いので、プン助の口にコップを運んでやる。

 

と、一口二口飲んだ後、咽てゴボゴボと吐きだした。

飲ませてやった途端に拭くことになり、何かと忙しい。

「よしよし、大丈夫だよ、大丈夫だから」

と、やさしく宥め続けていたニンタマだったが、突然

 

「私風呂入るね」

 

と、いきなり風呂へ向かう。

10時には布団に入るので、確かにこの時点で風呂に入らないといけないのは、わかるが、変わり身早すぎないか?

しかし、どんなことがあっても、生活スタイルを変えないニンタマをちょっと尊敬。

それまで二人で対応していたのに、一人で、プン助に向かうと急に心許ない気持ちになる。

 

 

「ひどいよ~~~、何もできなかった~~~」

 

もう15分くらい同じことを言い続けている。

こちらも段々腹が立って来る。

少しはこっちの話に聞く耳を持ってくれよ。

 

「だから~!今からだってできるって言ってるでしょ?先に1時間半分寝たから、逆に一時間半分、色々できるって思えばいいじゃん!」

 

「もう無理だ~、できない~~~」

「じゃあさ、もう風呂はいっちゃいな。こういう時はさ、さっさと風呂に入るのが一番だよ!気持ちが変わるかもよ?」

「何もできなかった~~~!起してくれなかった~、一杯やりたいことあったのに、何にもできないまま時間が流れていく~~~~」

 

すると、脱衣所からニンタマの声。

 

「もう、早く謝っちゃいなよ!」

「え?」

「だから、早く謝っちゃいなよ!」

 

一瞬、ニンタマが何を言っているのかわからなかった。

一般的には子供が何かをやらかして、親に謝まっちゃいなよ・・・というのが、普通だろう。

でも、ニンタマはそういう意味で言っていないような気がする。文脈的にもそれでは筋が通らない。

 

「え?もしかして、ママがプン助に謝れってことを言ってる?」

「そうだよ。謝っちゃいなよ、ママ」

 

私が?私が何を謝るというのだろう?

起さなかったことをか?

いやいや、夜何もやらずに寝てしまったら起こしてくれ…とか頼まれていないし。

色々やりたいことがあったのかもしれないが、予定や希望を聞いていたわけでもない。

こんなことでひどいひどいと言われるのは、こっちからすると、チンピラに絡まれているようなものだ。

偶々息子だから、仕方ないと思っているが、謝る筋合いではない。

そう言えば、ニンタマは自分が悪くなくても、プン助が怒るとすぐに

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

と謝り、時にはへらへら笑って土下座をしたりして、逆にプン助に嘘くさいと怒られたりしている。

 

「いやだよ!ママは謝らない。悪くもないのに謝るのはよくないよ」

「だって、こうなったらプン助は謝らないとどうにもなんないよ!さっさと謝っちゃいなよ!」

 

無性に腹が立ってきた。

「絶対に謝らない。あなたはすぐに謝るし、それがあなたの処世術かもしれないけど、ママは違うの。そういう時に謝るのはあなたの勝手だけど、そういう生き方はママはしないの!自分にとって正しいと思ったからって、ママにそれを押し付けないで」

つい強く言い返してしまった。

と、脱衣所から

「わかったよぉぉ・・・」

と、弱々しい声が聞こえて来た。

言い過ぎた・・・。これではニンタマの生き方を否定しちゃてるじゃないか。

傷つけてしまったかもしれない。

これ以上言わないで・・・と言わなかったものの、ちょっと泣きそうな声だった。

苛々は思わぬところに飛び火してしまう。

 

とりあえず、怒りを鎮めよう。誰の怒りだ?プン助の怒りか?私の怒りか?

よくわからない。

 

よくわからないが、困った時はスキンシップだ。

 

身を固くしているプン助を抱き寄せ、なんとかハグの体勢に持ち込んでみる。

 

最初は頑なだったプン助だが、私の胸と腹あたりに顔を埋めるというか、こすりつけ始めた。

抱き着いて来たというより、涙と鼻水とよだれを私の服で拭きたかったようにも思える。

緩いスライム状になった涙と鼻水とよだれはかなりの量だった。

若干気持ち悪いが、そんなことも言っていられない。

とりあえず、背中を撫でて、私もスーハ―スーハ―と深呼吸。

 

「ぼ、僕も、き、機嫌を直したいのに、どうしたらいいか・・・わからない。わからないまま、じ、時間が流れて行くぅぅぅ~~~~」

 

しゃくりあげながら、泣き続けるプン助。

時間が無駄に過ぎていくことに焦りながらも、何もできないことに苛立っているらしい。

やりたいことをする時間がどんどん減っている事だけは分かっているのだろう。

可哀そうに・・・。

でも、私も、どうすればいいのか、わからない。

よく、困っている人にはただ寄り添って共感しろというが、人の気持ちが落ち着くまでじっとしているのも結構しんどい。

退屈だし、他のこともしたくなってしまう。

私の時間もなくなっていく。

いいお母さんはそんなことを思ってはいけないのかもしれないが、私のやりたいことをやる時間も無くなってしまうよ~と、泣きたい気持ちになって行く。

 

プン助の背中も汗でぐちょぐちょだ。

 

体から色々液体を発しているし、興奮して体温も高そうだ。やはり、冷たい水分を与えたほうがいいのではなかろうか・・・。

さっきは水だったから、受け付けなかったのかもしれない。

 

氷入りのレモネードにしよう。

プン助はレモネードが大好きなのだ。日に何度も

「レモネード作って~」

と、言いすぎるので、最近は自分で作れるようにしないと・・・と、日に一度くらいしか作ってやらないことにしていた。

 

「しょうがない。サービスでレモネード作ってあげるよ。飲む?」

 

コクリと頷くプン助。

 

氷をたっぷり入れて持って行く。

ごくごく飲むかと思いきや、おちょぼ口でちびちび飲み始め、氷を口に含んでは、コップに吐き出す・・・という気持ちの悪い飲み方をし始めた。

 

何、この飲み方・・・、唾液がレモネードに入っちゃうじゃない。

 

ドン引きしながら、見ているが、注意はしなかった。

他所のお宅でこんな飲み方したら、出禁になるのでは?と、思うが、今は好きにさせておこう。

 

何分経っただろうか・・・。

 

プン助はずっとおちょぼ口でレモネードを啜り、氷を口に含んでは吐き出す・・・という飲み方を続けていた。

 

「ほら、大分氷小さくなったよ」

 

プン助は僅かに微笑みを浮かべて言った。

若干得意気でもある。

 

何?氷を小さくしたかったの?氷を溶かしながら飲みたいと思っていたの?

 

よくわからないが、何かいい兆しを感じる。

 

「あなたの飲みさしは、誰も飲めないね~」

 

と、私が笑うと、プン助もプっと笑った。

とりあえず、その雰囲気に乗じて並んで座って、押し合いをしたり、じゃれ合ったりしながら、

 

「もう、宿題はいいからさ~、風呂入って寝ちゃおうか」

「寝る前にさ、Amazonプライムで『ぼのぼの』

だけ観たい」

「しょうがないな~」

「ママも一緒に観るんだよ!」

「え~、ママも?しょうがないな~」

 

などと、話していると、風呂から出て来てすっぽんぽんのニンタマが、

なんだこいつら・・・と言う、しらけた顔でこちらを観ていた。

 

ふふん、あなたが風呂に入っている間に、仲直りしちゃったもんね・・・!謝れって言ってたけど、謝らないでも仲直りできちゃいましたよ!

 

11歳の娘に対して謎にドヤる気持ちが湧いていた。この程度のことで、得意気な気持ちになる自分のレベルの低さに、日々驚くが、とりあえず荒ぶる神を鎮めることは出来た。

よかった。

DV彼氏が暴れた後に彼女とスウィートに過ごすみたいに、私とプン助は傷つけあった心を癒すようにぴったり寄り添って、「ぼのぼの」を観たのだった。

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