蒸すのが好きなわけではない…おさんどんを巡る水面下のバトル
打ち合わせで、帰宅が遅くなると思い、朝夕食の下ごしらえだけして置こうと食材をチェック。
中途半端な量で痛みかけている里芋があったので、レンジでチン。
ひき肉と里芋の甘煮にするには、芋の量が足りない。
なんとなくジャガイモも足しておこう。
サラダにするにも、ひき肉の甘煮にするにも、ジャガイモで嵩ましすればなんとかなる。
そうそう、レタスも洗って契っておこう。ジャガイモを蒸すなら、ついでに塩麹につけ込んだ鳥の胸肉も蒸してしまおう。
早く帰宅できたら、里芋とジャガイモをひき肉で甘く煮物。
レタスにはアボカドを足して、水切りヨーグルトとポン酢で和えてサラダにすればいい。
鳥胸肉は裂いて、キュウリなんかを足してゴマだれかなんかにすればいいし…これでとりあえず、3品になる。
すると、
「あ、晩ご飯そっちが作ってくれるの?」
と、夜勤から帰って来たばかりの旦那さん。
ウチでは、なんとなく朝ご飯は二日酔いや徹夜でもしていない限り、私担当。
晩ご飯は得にローテーションが決まっているワケではないが、雰囲気で暇の度合いが高い方、もしくはより体力に余裕が残っている方が作ることになっている。
貧乏暇なしで高齢子持ちの我々はいつも余裕はなく、体力は常に限界。
晩ご飯の作りの担当はできれば避けたい。
なるべく相手に押し付けよう…という無言の闘いが日々繰り広げられている。
「あ、晩ご飯、そっちが作ってくれるの?」
というセリフはマウントを取られたも同じだ。
ヤバい。
「あ、打ち合わせ長引いたら作れないから、どっちが作るにしても、支度が楽なように準備してるだけ…」
と、なんとか身を交わす。
旦那さんは、私の下準備を見て、
「何これ、こんなの作られても、オレやり辛いんだけど…だったら、何にもしないでくれた方がマシだよ」
と、あからさまに不機嫌になった。
せっかく頑張って支度をしているのに、全否定かい!
イラっとして、
「え?でもレタスはすぐサラダにできるし、芋は最悪そのまま味噌付けても食べられるし」
と、反論する。
「わかった。じゃあ、それはそうするよ。で?肉は?こんな味のついてない肉だけ蒸されてもさ…」
「え〜!塩麹で下味ついてるもん!」
すると、
「だろ?味がついてると、やり辛いんだよ!味がついてなかったら、色々出来るのに、下手に味なんかついてるとさぁ!」
「だったら、オリーブオイルでも胡麻油でもかけて、なんか足りなかったらレモンでも絞ればいいじゃん!っていうかさ、さっきは味がついてないと困るって感じだったのに、今度は味がついてるとやだみたいなこと言うの?」
こんな風に夫たる人種を追いつめるのは得策ではない…ということは重々承知しているのだが、50近くなろうがどうしても、そこまで大人にはなれない。
たかが、おさんどんで若干険悪な雰囲気に。
しばらく黙っていた旦那さんだったが、
「ま〜、そっちがなんでも蒸したいってことはわかったよ!」
と、よくわからないまとめ方をした。
面倒くさくなり、
「っていうかさ、私ご飯つくらないって言って無いじゃん!早く帰れたら作るよ?でも、わかんないからさぁ」
と、ついに一応この日のご飯担当を引き受けるつもりがある台詞を口にしてしまった。
険悪になる前に最初っからそう言っておけばよかった。
無駄に揉めてしまっただけだ。
だが結局、打ち合わせは、長引いてしまった。
急いで帰ろうと思っていたら、数件電話が掛かって来たりで、帰宅できたのはほぼ19時。
すでに旦那さんと子供らは食卓を囲んでいた。
テーブルの上には、里芋と、ジャガイモの蒸したものに味噌を添えたもの、レタスに細かく裂いた鶏肉が入ったサラダ、昨日の夕食の残りの鮭、キャベツの味噌汁が並んでいた。
お味噌汁は、新たに作ってくれたらしい。
「このジャガイモさぁなんでこんなにしょっぱいの?そういう種類?」
と、旦那さんにジャガイモの味見をするように言われる。
食べてみると舌がピリっと痺れ、味つけしたようにしょっぱい。
食べたことの無い味だ…。
そういう種類?だとしても、全くおいしくない。
というか、不味い。
今の所変な匂いはしないが、痛みかけているのかもしれない。
思えば、朝はそれほどでもなかったが、昼は夏かと思う程暑かった。
保温力に優れたステンレス何層…というのが売りの鍋で蒸して、そのまま余熱で…と思ったのが、裏目に出てしまったようだ。
よかれと思ってやった事で、朝っぱらから険悪な雰囲気になった上に、作ったものは食べられない有様。
なんてコストパフォーマンスが悪い一日なんだ…。
「なんでもかんでも蒸すのが好きだから、こんなことになるんだよ」
旦那さんはそんな事は言わなかったが、内心思っているのではなかろうか…。
バツが悪くなり、「保温力の高い鍋っていうのも善し悪しだね」「やっぱり、この季節は、すぐに冷蔵庫に入れなきゃだめだね!」「鶏肉は無事で良かったよ」
と、一人でべらべらしゃべりまくった。
子供らはご飯に味噌をかけたものばかりお替わりしていた。
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