安岡力也になりたい。
遅ればせながら、4月21日に引越をしたのだった。
引っ越しの際、家に4カ所ある窓のサイズがどれも既製品では合わず、オーダーすることになった。
自分で測ると、何度測ってもサイズが変わり、不安を感じていた。
そんな時、たまたま自転車でニトリに行く途中、カーテン屋を発見。オーダーカーテンが格安らしい。
ネットで安いカーテンも発見したが、実物を見ないと不安…ということもあり、そこに頼むことにした。
電話をかけてみると、商売っ気のなさそうな女性が対応してくれた。
人柄は良さそうだが、店に行くと言ったにも関わらず、こちらの名前もきかない。
少し心配になったが、ぐいぐい押し売りされる心配が無さそうなところは安心だった。
候補の生地をレンタルしてくれるので、窓にかけてイメージもしやすい。
穴場の店を見つけたと思っていた。
リビングの腰高の窓だけロールカーテンにして、後は普通のカーテンを取り付けることにした。
ロールカーテンだけは、業者が取り付けるらしい。どうせ、業者が来るならついでに他のカーテンのサイズも測ってもらい、見積もりを出してもらうことにした。
見積もり当日。
仕事もあるので、朝一番に来てもらおうと10時にお願いしていた。
ところが、9時50分頃にインターホン。
カーテン屋にしては早いと思ったが、10分なら許容範囲と、あまり気にしなかった。
小太りのメガネのおっさんが、
「失礼します~」
と、脚立をガタガタさせて、部屋に上がり込んで来た。
「ここですね」
すさまじい勢いで、窓を測り始めた。
その測り方が、思ったよりアバウトというか、杜撰な印象。
え…、こんな雑な感じでいいの?
プロはもっと丁寧に測ると想像していた。
だが、プロだからこそ、雑でもきちんと測れるのかもしれない。
妙な違和感はあったが、あまり気にしない事にした。
おっさんは凄い勢いで、測り、凄い勢いで帰って行った。
まるで、車に戻るまでの秒数を測って記録を作ろうとしているかのように。
数日後、廊下のクロスに2カ所、汚れを発見した。
初めは、子供が汚したのだと思い、消しゴムで擦ってみたが、全く落ちない。
少し、油汚れがあるのかも…。
その時、ふと脚立をガタガタ言わせて入って来たカーテン職人のおっさんの姿が思い浮かんだ。
あの脚立かもしれない…。
だが、確信は持てない。
どうせ、小さい子供のいる家などすぐ汚れる。
あまり、気にしない事にした。
そして、約2週間後。
ロールカーテンの取り付けに再びおっさんがやって来た。
この日は20分も早くやって来た。
ロールカーテン以外にもカーテンを注文していたので、その時に持って来てもらった。
ロールカーテンのメカを取り付けるには、窓枠の側の天井にビスで穴を開けなければならない。
「この窓ですね」
「はい」
私が返事をしたかしないか分からないうちに
「ギュイ~ン!」
と、機械で穴があけられていた。
え?測ったり、確認しないでいきなり?
またもや、驚くが、プロともなると、瞬時に窓枠の真ん中が分かるのだろうか…。
不安を感じながらも、仮にもプロなのだし…と、気にしない事にした。
ロールカーテンは無事にとりつけられた。
一度、上げ下ろしをしてみたが、この時は特におかしな様子もなかった。
「では、これ、残りのカーテンです」
おっさんは、残りのカーテンを袋ごと私に手渡し、靴を履き始めた。
え?帰るの?
カーテン業者が取り付けると一窓当たり、500円を取ると書いてあったので、取り付けは頼まなかったが、丈が長いとか短いとかあるかもしれないし、折角来たのだから、確認とかしないの?
そうは思ったものの、私が残りのカーテンを3窓分とりつけるのには結構時間かかかる。
その間、この小太りのおっさん(その日は異様に汗くさかった)が、ずっと側にいるのもなんとなく、気まずい。臭いし。
まあ、それほどおかしなこともないだろう。
あったとしたら、電話すればいいし…と、
「ご苦労様です」
そのまま玄関で見送った。
まずはリビングから、取り付けた。
うん。
いいんじゃない?
カーテンのセンスには全く自信が無いが、なんとなくリビングって雰囲気。
そして、残りの部屋2つのカーテンも取り付けようと袋から取り出した。
ん?
違くない?これ?
残りの部屋は一つが掃き出し窓でもう一つは腰高窓。
注文した柄が、あべこべになっているではないか!
あれ?私の注文の仕方が間違えていたのだろうか?
まあ、これでも良いと言えば良いけれど…
でも、自分の心つもりとは違う…。
迷ったものの、一応電話してみるか…。
っていうか、あのおっさんがさっさと帰らないで確認して行けば、話はスムーズだったのに…。
電話で担当の女性に「カーテンがあべこべ」の旨を伝えると、とても恐縮して、すぐに作り直すと言ってくれた。
「私は間違えてません」
と、言い張られたらどうしようと思ったので、ホッとした。
バイトっぽい女性が、すぐにカーテンの回収に来た。
新しいカーテンが出来上がるまでの間、不便でしょうからと、替わりのカーテンも持って来てくれた。
カーテンを取り外したり、取り付けるのは結構面倒なので、替わりのカーテンの取り付けとかやってくれないかしら?と、思ったが、取り外しだけで、取り付けはやってくれなかった。
そして、女性は飛ぶ様に帰って行った。
やれやれ…。
こういうのは早くとりつけないと面倒になる…と、すぐに替わりのカーテンを取り付ける事に。まずは腰高窓からとりつけ、引き続き掃き出し窓用も…と、袋から生地を取り出した。
「ん?」
カーテンをつり下げるフックがついてない。そして、2つに別れてもいない。
ただの一枚の巨大な布だった。
マルチカバーって奴じゃないの?これ?
何、これ?
これをどうしろって言うの?
マルチにカバーする場所なんて、ないよ?
さすがに、ちょっと苛ついて来た。
何なんだ。
おっさんと言い、バイトっぽい女性と言い、ろくに確認もしないで飛ぶように帰りやがって。
っていうか、別に確認しなくてもいい。ミスが無ければ。
でも、ミス連発じゃないですか。
こんなにミスの頻度が高いなら、ちゃんと確認して下さいよ…。
まあ、代りのカーテンなんて、向こうのサービスと言えなくもないから別に文句は付けないけど…。
駄目じゃないですか?あのカーテン屋…。
そのまま一日二日過ぎた。
ロールカーテンに不都合が生じた。
ロールカーテン生活は結構快適で、気に入っていた。
だが、窓の半分くらいまで閉めれば、ある程度外からの視線を遮られるので、下まだちゃんと降ろすことがなかった。
ところが、たまたまカーテンを下まで降ろしてみると、下に降ろす度に窓の手前の手すりに当たって、たわんでしまうではないか。
確かに滅多に一番下まで降ろす事は無い。
でも、降ろす度に手すりに引っかかったり、きちんと降りないのは困る。
あのおっさんの杜撰な測り方、目測だけでギュイ~ンと穴を開ける仕事ぶりが蘇って来た。
駄目すぎじゃん…。
クレームの電話をしなければ…と思いつつ、気力がわかずぐったりしていたら、
「俺が電話する」
と、旦那さん。
朝、稽古に行く前に電話をかけた。
「あの~、クレームなんですけど、対応してくれる人お願いします」
違う。私の弱腰な対応とは端から違う。
私なら
「あ…すみません~。えっと~、この間、ロールカーテンを取り付けたものなんですけど~」
と、温く始まりつつ、悪くもないのに、初めにあやまったりしていた所だ。
頼もしく思いつつも、そんなけんか腰でいいの?と、ハラハラしたり。
「嫁さんの話では、測りもしないで、穴開けたっつうじゃありませんか。いくらプロの方だからって、測らなきゃね~。っていうか一回開けちゃった穴、これ、どうしてくれるんですか?」
そんなこんなで、ロールカーテンを付け直しすることになった。
穴も同じ穴で場所をずらすことは出来るけれど、それでも手すりに当たる場合は、穴の補修もして、その費用も業者が請け負うということになった。
私も
「あの…、いつも早くいらっしゃるんで、早く来るのはいいのですが、20分とか早くなるなら、電話一本欲しいんですけど…」
と、付け足しておいた。
付け直しの日。この日は旦那さんにも立ち会ってもらうことにした。
約束は10時。
10時40分には、稽古に向わなければならない。
いつも早く来るカーテン屋、この日に限って10時になっても現れない。
10時5分に
「渋滞で遅れるけれど、5分程で着きます」
との電話。
その電話も全て旦那さんに取ってもらった。
私では舐められる。
怒っていることが伝わっている怖そうな旦那さんが出た方が、効果的のはず。
10時20分頃、旦那さんが再び電話。
「まだ、来ないんですけど、どうなっているんですかね~。今日がどういう日が分かってますよね。クレームつけた、その次にこれやられるって、おか
しいんじゃないですか?僕、もう仕事いかなきゃいけないんで~、そしたら、また怖いおじさんが来て、妻が一人でびびっているって状態になるじゃないです
か?」
怖いおっさんが来て、ビビってるっていうのは本当だけれど、告げ口したみたいじゃない、それじゃ…。
まあ、告げ口したんだけど。
「確認します」
と、返事があった5分後、職人のおっさんがやって来た。
玄関で出迎える旦那さん。
「おそくなってしまい、すみません」
私の時とは別人のようにかしこまっている。
「あの~、今日これやられちゃったらさぁ~~」
「そうですよね。時間厳守じゃないと」
「そういことじゃなくて…」
「僕はもう、ついていたんですけど、カーテンがまだ届かなくて、下で待ってたんです。すぐ来ると思うんですけど」
どうやら、ロールカーテンの取り付けに来たおっさんと、間違えたカーテンを届けに来る人は別らしい。
おっさんは早くついていたのかもしれないが、カーテン待ちをしていたのか、独りで怒っていると報告されている旦那さんに対峙するのが、嫌で下で待っていたのか分からないが、一生懸命言い訳を始めた。
「とにかく、付けて下さい」
旦那さんに促され、職人のおっさんはロールカーテンを外し、メカの調節を始めた。
メカには穴が三つあるらしく、穴を変えることで、数センチ場所をずらせるらしい。
穴を帰ると、手すりに引っかかる問題は解消された。
そうこうしているうちに、作り直したカーテンも届けられた。
私を担当した女性よりは偉い立場にいそうな男性で、ひたすら恐縮して謝り、お菓子も持参して来た。
そして、初めて
「差し支えなければ、こちらでカーテンの取り付けをさせて下さい」
と、言った。
職人のおっさんと、二人掛かりでカーテンを取り付けた。
「これで終わり?このカーテン屋との付き合いは?」
と、旦那さん。
カーテン業者は平身低頭で帰って行った。
やっと、普通にカーテンを開けたり閉めたりして暮らせるようになった。
それにしても、クレーム一つ付けるにしても、とても難しい。
私も初めに、友好的に接してしまった人じゃなく、最初からクレーム体勢で臨めばもう少し毅然と不備を伝えられるのだが…。
それでも、いくら私がキツい調子で言ったとしても、ガタイや見た目、女性ということではやり、舐められてしまう。
こういう時はやはり男性の方がいい。
「凄いね~、頼りになるね~。お菓子まで貰えたね~。私じゃ、ああは行かないよ~~~!」
ここぞとばかりに、旦那さんを褒めちぎったが、全く嬉しそうじゃなかった。
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