ニンタマ、ピーポーに乗る
母がニンタマの為に買った、ペダルの無い自転車の組み立てが上手く行かず、午前中にトイザラスで見てもらう事になった。
赤ちゃん本舗にもよって、ニンタマが店舗で履ける簡単な靴、踏み台、オマルなども見ることにした。
午前中だけだと言うのに、病み上がりの母と9ヶ月妊婦と2歳児の外出は思いのほかハードだった。
ヘトヘトになって戻り、ニンタマがウンチをしたがったので、オマルに座らせていたら、私の方が急に便意を催してしまった。
「ママ、トイレに行って来るよ」
と、トイレに行くが、3日程便秘だったため、苦しいだけで中々出せない。
無理矢理踏ん張ると、ある程度は出せたのだが、どう考えてもまだ残っているという状態で、トイレから出られなくなってしまった。
イキミすぎて、お尻が痛い上に、股間にまるで巨大な頭が下がっている様な感触。
そんなはずは無いと思いながら、まさか赤子が降りて来ているのでは?と、不安になる。前回の出産では10時間以上陣痛が続いても全く降りて来なかったので、こんな簡単に下がって来るとは思えないのだが、明らかに股間がおかしい。
とりあえず、母に異変を訴え布団に横たわる。股間が盛り上がり、中がめくれているような感じがして、とても普通に座ることが出来ない。
これから仕事に行こうと思っていたが、とても無理だ。
ニンタマが
「ママ~、抱っこちて~」
と、飛び乗って来るので、
「ママ、お腹痛いの~。乗らないで~」
と、お願いすると、
「ニンタマちゃんは足が痛いの~」
と、キャイキャイはしゃいで、覆いかぶさって来る。
苦しくて死にそうだったが、笑ってしまう。
助産院に連絡をした。
自分としては「ウンチを息んだだけで下がるなんてありません。大丈夫ですよ」と、言って貰いたかったのだが、
「近所で出来るだけ大きな産科を受診して下さい」
と、言われてしまった。
母がこちらにいる兄弟に電話をして、病院情報を収集したが、こちらでお産をするわけでも無いのに、受け入れてくれそうな所は無かった。
病み上がりの母とまともに座ることも出来ない私と、暴れ盛りのニンタマで、なんとか病院に駆け込んでも、見てもらえないかもしれない。
見てもらえたとしても、この状態で1、2時間待たされたりということはどう考えてもありえない。
母も私もニンタマを抱っこ出来ないし、どこかへ行ってしまっても、追いかけることも出来ない。
「確実に診てもらうには、救急車しかない」
と、母が電話をかけた。
救急車の名前を聞いた途端、ニンタマは大喜び。
「ママ、早く支度しなよ~」
と、早くも玄関へ飛び出し、靴を履いて私を急かす。
普段は「履けないの~、履かちて~」と、甘えるくせにこの時の動作は俊敏だった。
這うように動いて支度する私に「ノロノロするな」と、言わんばかり。
私は、股間の感覚がおかしくなっているので、尿意もあるのだが、出せずとても苦しい。
救急車のサイレンが近づいて来ると、ニンタマは益々ヒートアップ。
「ピーポーに乗れるの嬉しい?」
と、聞くと
「うん」
と、わくわくしている様子。
だが、私が担架で運ばれているのを見たらさすがに驚いたようだ。
「ママ病気なの?」
と、やっと神妙な顔になった。
救急隊員の人に状況を伝える。とても良い人だったが、何故か言われたことと違う報告ばかりしていて、驚く。
「ウンチを息み過ぎて…」と、何度も言ったのだが、
「子供が流れそうと言っています」「排尿しようとしたけれど、出せないみたいで」
と、一向にウンチの事を言わない。
何か気でも遣っているのだろうか?それとも、そんなふざけた理由では収容してもらえないと、収容してもらえそうな言い方をしているのだろうか?
結局、東北大に搬送してもらえる事になった。ニンタマはいつの間にか眠ってしまった。
病院につくと、隊員さんが母に
「荷物はこちらで持ちますんで、お母さん、お子さんだけ抱っこして下さい」
と、言っていた。カテーテルを通したということだけでなく、14キロのニンタマを高齢の母が抱っこするのは無理。かといって、担架にのせてもらう訳にもいかない。
「私もカテーテルやったばかりで…」
と、弱り切る母。
隊員さんが上司のような人に
「抱っこしてもいいですか?」
と、許可を取ってニンタマを抱っこして、車を降りた。その瞬間ニンタマはパチっと目を開けたが、そのまま病室まで抱っこしてもらっていた。
産科の方では
「すわ!出産か!」
と、思っていたようで大勢の医師や助産師さんらしき人や看護士さんが待機していた。なんだか申し訳ない気持ちになる。
内診や超音波検査と、お腹のモニターチェックをされた。
この時点で、すでに股間にあった固い塊は姿を消していた。
結果的には赤ちゃんが、かなり下がって来ていて、子宮頸管が短くなっている状態で切迫早産と診断された。
子宮頸管の長さが2・5センチ。この段階だと、3センチは欲しい所で、2センチを切ると入院なのだそうだ。11月29日の検診では4・2センチあり、早産の心配は無いとお済みつきだったのだが…。
だが、以前4D撮影の時
「結構下がって来てますね。夕方とかで、お母さんが疲れると、下がって来るんですよ~」
と、言われた事を思い出した。確かにこの日はとても疲れていた。
「助産院は内診しないからリスクが高いんだよね~」
と、お医者さん。
だが、その後若い助産師さんらしき人が私にこっそり
「Y助産院なんですか!凄いですね~!」
と、話しかけて来た。
きっとその助産師さんにとっては憧れの助産院なのだろう。私の手柄でも何でもないのだが、ちょっと嬉しくなった。
自覚症状は無かったが、お腹も張っているらしい。張り止めと、便秘の薬を処方され、
「なるべく早く東京へ帰るように」
言われる。
その際
「子供は抱っこしないで誰かに付き添ってもらいなさい」
と、言われた。
それは不可能だ。旦那さんは本番直前で昼夜稽古だ。
そして、母も仕事をしている上にニンタマを抱っこすることは出来ない。
最善策としてはこちらで無理しないで体調を整えることしかないだろう。
診察が終わる頃にはニンタマは床を這いつくばる勢いで、眠そうだった。
だが、抱っこできないので、苦労しながらタクシーまで歩かせ、帰宅。
タクシーで寝られると、部屋まで抱っこで運ばなければならないので、ドキドキしたが、車好きなので興奮してハイテンションになっていた。
やっと帰宅。
洗いものは溜まり、部屋はメチャクチャになっていた。
片付けたかったが、さすがに、立つとお腹が張るというのが分かった。
母が
「アンタは寝てなさい」
と、言うので横たわっていたが、母が洗いものなどをしていると、病み上がりなのに大丈夫なのだろうか?と、心配になった。
結局ニンタマな大復活して、全然寝なかった。
母の助けにならねばと思っていたが、大変な思いをさせてしまった。
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