あわや虐待
若い頃、富士急ハイランドのお化け屋敷でお化けのアルバイトをしていた。
お化けはお客を驚かしたり、怖がらせることが仕事。
こちらが、怖い声色で
話したり、物陰に潜んだり、きっかいな動きをしたり、付け回すことが仕事でありサービスなのだ。
だが、世の中にはプライドの高い人や、俺は普通の奴らと違
う!と、アピールした人がとても多い。大人にも子供にもいる。
「俺だけかな?こんな平然としてんの」
「怖くありませんでした〜」
「時給いくら〜」
って感じの客がうじゃうじゃ。個性をアピールして無個性に陥っていることに全く気がつかない。
そして、怖がってる子供や彼女に
「怖くないだろ!人間がやってんだぞ!よく見ろよ!全然怖くないだろ!」
と、怒ったり、怒鳴ったりする人もいる。
普通に楽しむ(怖がる)お客さんもいるものの、いきなり子供に殴られたり、ブラジャーのヒモを引っ張られたり、スカートをめくられたり、大変なことも多かった。
仲間とグチりながらも私はまだ大丈夫!と、思っていたある日。
中学生くらいの男子達に持ち場に30分以上居座られ、暴れらた挙げ句、何度も背中を叩かれ、振り向くと指で顔をついては笑われる・・・ということを繰り返された。
気がついたら
「てめぇぶっ殺す!」
と、自分でも聞いたことが無いような怒号をあげ、そのウチの一人を蹴ろうと襲いかかっていた。
え?これ私?・・・と、幽体離脱した自分が驚いて、自分を見ているようだった。
あまりのことに自分で、びっくりして、その後、ショックで大泣きした。
以来、なるべく我慢しすぎず、自分の理性を過信しないように気をつけるようにして来た。
ちょっと腹が立ったり、我慢することがあれば、チョイチョイ酷いことを言ったり、グチって発散するようにしていた。
それはニンタマの子育てにおいても、役に立っていた。
だが、昨日はちょっと危なかった。
比較的育てやすいニンタマだが、第二子がお腹にいるのも関係するのか、最近びっくりする程、私にベタベタ甘える。
今までは、夫や母で良かったことも全部「ママ!」となってしまった。
指名してくれるのはいいが、せっかく他に戦力がいるのに、休みたいときも全然休めない。
そして、ちょっとトイレに行ったり、ご飯を作ったりするだけで、泣いて追いかけて来る。
早くご飯よこせ!と、騒ぐくせに、ご飯を作りに行くと泣いて縋る。
抱っこ抱っこと、せがむ。
なるべく抱っこするようにしているが、大荷物の時など、お腹に痛みが走って怖くなる。
抱っこしないと、道路でもゴロゴロ寝そべって暴れる。
「もう一歩も歩けないよ〜、重い・・・重い・・・痛い・・・」
と、墓を作る奴隷にさせられたような気分。
ニンタマなりにストレスを貯めているのだろうと、休みには弁当をつくり、動物園へ連れて行ったりしていたが、そこでも抱っこの重労働。
土日の方が、ヘトヘト。働かなければならない月曜日には寝込みそうになる。
この日は昼にニンタマをベビーカーへ乗せて、街へ行き、夕方には保育園の夏祭り。
夏祭りで盆踊りなどもあったが、踊れるはずのニンタマは「抱っこ〜」と、
しがみついて、全く踊らない。
保育園の祭りの後、街の縁日を見せようと三鷹を歩くが、ニンタマは全く歩かない。ヘトヘトになり、帰宅。
ぼんやり座っていると、
「見ててね〜」
と、ニンタマはソファーから私に向かって飛びかかって来た。
13キロが飛びかかって来る衝撃はかなりのもので、お腹の赤子も心配になる。
「やめてね」
と、言うが何度も何度も飛びかかって来る。
「止めろって入ったでしょ!」
と、自分でもびっくりする声が出た。
強く言い過ぎたか?と、心配していると、
「ギャハハハハ〜」
と、大笑い。
何度も何度も飛びかかって来た。
頭に来たのと、衝撃に耐えかねて、つい避けてしまう。
べちゃっと、床に落ちてギャン泣きするニンタマ。
哀れっぽい様子で
「抱っこ〜、抱っこ〜」
と、すがりついて来たが、
「知らねえよ!おめぇが勝手に落ちたんだろが!」
と、怒鳴りつけてしまった。
これはヤバい・・・と、発作的にニンタマから離れ、隣の部屋へ逃げた。
ニンタマは暫く泣いていたが、私も閉じこもってしばらく泣いていた。
今、ニンタマと一緒にいたら、もっと酷いことを言ってしまいそう。
何分程経ったのか分からないが、いつの間にか静かになったな・・・と思ったら、閉じこもっている和室の襖がガタガタし始めた。
ニンタマはまだ、襖を開けられなかったのだが、この時、初めてこじあけて、入って来た。
泣いているかと思いきや、ニコニコしている。
その顔を見たら、少しほっとして、
「あら〜、襖開けられるようになったの〜、凄いね〜」
と、いつも通りに接することが出来た。
優しく接するにはこちらも元気じゃなければ、無理だと改めて実感。
読みたい本も観たいテレも当分お預けにして、とにかく寝た方が得策だ。
元気で精神状態が良くないと、私みたいな未熟な人間の子育ては危険。
元気でいて良い精神状態を保ち、幸せになる為の努力をするというのはいい人でいる為の義務かもしれない。
今まで、全てのことがそうだったが、騙し騙し・・・その場しのぎであろうが、なんでもいいので、踏ん張らないといかんと思った。
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