バリ五日目
太陽など毎日登っている。
ちょっと海や外国に来たからって、ご苦労な事だよと自分を罵りながら支度。
まだ真っ暗だった。
出掛けにノムコに「もし、何かあったら財布を渡すんだよ」と、言われる。
一人で暗闇を歩いていると、白い人影。
こんな時間に何をしているのだろう。
自分を棚に上げてそう思う。
ただ、ふらっと立っている。
向こうも私を見ると驚いている様子。そういう人が何人かいた。
浜についてもまだ暗い。30分ほど身を固くして日の出を待つ。
やや明るくなってくると、ぞろぞろ人が砂浜に集まりじーっとしている。
海につかる人も数人。首まで入っている。漬かり過ぎだろう。
よく分からないが宗教的意味があるようだ。
しばらくするとノムコがやって来た。
ノムコが海を見てぎゃっ!と言った。30匹位の小魚が一斉に飛び跳ねたのだという。
私は見逃してしまった。
二人で膝くらいまで海に入り、チャンスを狙う。
ノムコが2度3度「見た?」と、聞くのを悉く見逃してしまう。
日の出は当たり前のように綺麗だった。
プリクラパ・ガーデンコテージをチェックアウトする。今日からウブドへ。
ガイドさんに薦められ、芸術村へ。
初めはバティックという布の製作を見学。
いわゆるろうけつ染め。非常に細かい作業。
その後バティックの店へ。私が海外旅行で最も苦手なコース。
ガイドさんに連れていかれる所ではもれなく買い物コースが付いてくる。
初めて行ったマレーシアでは免税店にばかり連れて行かれ、
よく分からないままに随分買い物をしてしまった。
1時間ほど店から出られないように鍵をかけられた事もあった。
それ以来ガイドさんに薦められるコースはほとんど拒否するようになった。
だが、物の製作過程は見たかった。
押しに負けて無駄に買わなければ良いだけの話だ。気をしっかり持つ。
確かに布はどれもステキ。コースターやランチョンマットにしたらさぞ良いだろう。
だが、普段そんな物は使わない。
あなたにこのドレスが似合うと薦められ、当ててみる。悪くは無い。
だが胸をワシ掴みされるほどでは無い。逃げる。
すると、別の店員に挟みうちに会う。別なドレスをあてがわれる。
サイズに難があるふりをして断る。
気づくとノムコもユキゾウもいない。二人は外にいた。
もう少しで気まずさのあまり欲しくもないものを買いそうだった。
これからは買い物の時二人の傍を離れないと決意。
二人にも私が店員に囲まれているのに気づいたら来てくれるように頼む。
一人で断れなければいけないとは分かっているのだが、ただ薄ら笑いを浮かべてるうちに
意に沿わない状況になってしまうのを避けることが出来ない。非力だ。
その後、アタという植物で作る籠、銀細工、絵などの製作過程を見学。
銀製品は初めから買うつもりだった。だが、値段交渉で揉める。
店員が提示した値段をノムコとユキゾウが見て、「高すぎる」と、交渉してくれる。
私はへらへらしているだけ。よく分からなくなる。
ただ、薔薇の細工のペンダント、母へあげるペンダントはどうしても欲しかった。
相手の値段を飲んでもいいような気持ちになった。
だが、ユキゾウに「しょうがない。ゆうかちゃんあきらめな」と言われる。
欲しかったのであきらめたくなかったが、これは策略では・・・と気づいた。
帽子を被りはずしていたメガネをかけ立ち去ろうとしたら、店員さんに呼び止められた。
初めの値段より大分下げて貰えたのだ。
物欲に目がくらんでいたが、このような駆け引きが必要だったのだ。
一人ではとても出来ない。
助けて貰えなければ何も出来ない。

ウブドのグリーン・フィールド・ホテルへチェックイン。
山田詠美が執筆したと言われている。
だが、我々の部屋は質素であった。
プールに案内されう途中デラックスルームを目撃。
親をつれてくるならデラックスルームね、などと夢の話をする。
散歩がてら昼食を取る店を探す。
道で写真を取っている白人男性がいた。
彼と目が会うと微笑まれた。悪い気はしなかった。
背後から声をかけられる。英語が出来るノムコが応対。
自分はスペイン系フランス人でレオンという、レオンはライオンという意味だ、君達はどこに泊まっているのか?自分はバイクもあるし車もあるから、どこにでも連れていけるなどと言っていた。
初めは、私が目当てかしらと気をよくしていたが、徐々に彼の目線がユキゾウのみに注がれている事に気づく。
「What your name?」
「ユキコ」
「Nice to meet you,YUKIKO」
レオンはユキゾウの手を握りしめる。
「ユキコ目当てだよ」と、ノムコとテレパシーで会話をしていると、彼は我に返ったようだ。ついでのように我々にも名前を聞いてきた。
しかし、聞くのはユキゾウの事ばかり。
彼女は英語を話せないのかという問いにノムコが今勉強中と答える。
「いつから勉強しているのか?」
「今」
「もし、彼女のその気があるなら、自分はフランス語、スペイン語、英語を教えることができる。フランスに行きたくはないか?」
「行きたい」
「いつ来るのかい?」
「そのうち」
「フランスに来たら、僕が案内してあげる」
という感じのやり取りが行われる。
レオンは自分のメルアドをノムコの地図に書き、ユキゾウに気が向いたら連絡くれるように言っていた。
彼と別れてひとしきり
「フランス人は凄いね~。いい男だったじゃん。ジャン・レノみたいで」
「ユキゾウ抜きで二人でフランスに行ったら面白いね」
「私らまるで通訳と子供だったよね~」
などと冷やかす。
だが、ユキゾウは異国で見ると日本人離れしてゴージャス。
チンケなジャップには見えない。つれていて鼻が高い。
ノムコは海外放浪をしていただけあって、かなり話せる。
ユキゾウは私と同じでほとんど話せないが、分からなくても卑屈にならず堂々としている。
私だけが、海外で貧相になる典型的な駄目日本人だ。
曖昧に笑い、英語が話せないのをごま化す為に絶えず謎の音声を発している。
バリ飯に少々飽きはじめた我々はピザやパスタのある店で昼食。
インドネシア語の
「すいませ~ん」
を初めて使ってみる。ノムコが「プルミシ」と、呼びかけてみると、不審な顔をされる。
店員では無く客だったのだ。
夜はサレン王宮へ行きレゴンダンスを観る。
生で観るガムラン演奏に興奮していると、踊り子が出てくる。
どんな踊りより艶っぽく今にも天に飛び立つ天女のようだった。
獅子舞のような踊りも素晴らしかった。
こちらでは生活に神様が密着している。
踊りにもよく神様が出てくるのだが、猿のバナナを欲しがったりおよそ神様らしくない。
西洋人でロン毛のカメラマンが盛んにショーの写真を撮っていた。
「あの人カッコ良くない?」と、ノムコに耳うち。
ノムコははっとして「ハミルさんみたい」と言った。
「ガラスの仮面」の登場人物だ。
紅天女の稽古に励む姫川亜弓に魅せられ「ヘイ、亜弓!」と、言いながら写真をとっては邪魔がられているカメラマン。
確かに似ていた。
ハミルさんに美人な彼女がいた。どちらにせよ、全く関係ないのだが興ざめする。
大層素晴らしいショーだったが連日の疲れのためか、時折気が遠くなる。
ガムランがまた眠気をそそるのだ。後で聞くとノムコもそうだったという。
このことは一番興奮しているユキゾウには内緒にしようと話し合う。
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