原宿と自慢
原宿へ行く。
純粋に自分の意志で原宿に行くのは初めてだ。今まで人に誘われた用事でしか行った事が無い。実は原宿を差別していたのだ。
練馬区とはいえ東京育ちの私は、原宿は田舎者の行きたがる街と思っていたのだ。頑張り過ぎた格好している人が多いのも気味が悪かった。稀にモデル並の素敵な人もいるが、90%は中途半端で失敗しているへんてこな人に見える。田舎者が集う街のくせに、店員が高飛車で感じが悪かったりもする。私が東京っ子と思う人の代表は中山君だ。特別な格好はしていないし、時折妙なジャージを着ていたりする。何を着ていても新品に見えない。その頑張り感が無い感じが東京っ子ぽい。
田舎者を差別するつもりは無かったが、田舎者によく馬鹿にされた。予備校時代寮に入っていた。豊橋出身でヴィトンのバッグを持っている子がいて、beamsの場所を知らない、というと「あんた本当に東京の人」と言われた。
「私はいつでも行けるから、行かないんだもの。たまに来てはしゃいで行くのは田舎の人でしょ」と言えずに悔しい思いをした。彼女は雑誌に載っているような店は大体知っていた。いつも自慢ばかりしていた。
「今の彼氏は5人目」「高校時代の彼氏と私は学校の憧れだった」「でも、私は結局彼のアクセサリーでしか無かったの」
散々自慢しては私に「あんたが大学に行って、変な男に騙されて捨てられるんじゃないかって、それだけが心配」等と失礼な事を言う。その子は合格発表の時実家に帰っていて、通知が来たら知らせて欲しいと言っていた。私も合格発表を待っていた。本命の学校が2つあったが、1つは補欠、もう1つはまだと言う状況だった。補欠と言っても入れる保証は無い。その頃に彼女の本命の合格通知が来た。余程握りつぶしてやろうかと思ったが、悪者にもなり切れず嫌々知らせた。
私のいた寮は小規模で、寮母さんが甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。いつも自家製のパンを焼いてくれていい人だったが、親戚の子供の合格通知を握りつぶしたことがあると言っていた。寮母さんの焼いたパンを何度も手で触って、選んだ揚げ句食べなかったからだそうだ。「あんな行儀の悪い子、東京に出しちゃだめよ」とからから笑っていた。パンで人生が変わることもあるのだ。
大学へ入ってからはその子とは一度も会わなかった。一度だけ電話で話したら、「私は文が上手いから小説家になる」と言っていた。一緒にいる時は嫌いでは無かった。後になって、人を落として自分を上げる人が沢山いて、私はそういう人の餌食になりやすかった事がわかった。私にとっての田舎者代表はその彼女なのだ。
だから、彼女が好んで行っていた原宿なんて「ケッ」って思っていた。自分が東京以外の所に住んでいたら、わざわざ東京になんて来なかっただろう。「そんなバイタリティ持ち合わせてませんわ」って反発する所もあった。あれから10年以上経つ。原宿はやっぱり田舎者のメッカだと思うが、以前程不愉快な場所では無くなった。馬鹿にされて悔しい思いした反動で、かなり突っ張った自意識を持ったり、逆に自分から人を差別したりしなければならない時期は終わったのかもしれない。
原宿にはまつ毛パーマを掛けに行った。川田希ちゃん、吉田りえちゃん、鈴木砂羽さんと、身の周りのまつ毛パーマをかけている人が口をそろえて「楽だよ」と言う。「みつばち」を終えてから、すぐ行きたかったのだが、モノモライ騒動で無理だったのだ。美しくなるために原宿へ行くのは、ちょっと浮き浮きした。仕上がりも満足。寝ている間にまつ毛クルリンになった。
帰りに変なお兄さんに声を掛けられた。どうも美容サロンのセールスのようだ。アメとチラシを手に持っていた。「学生さん」と言われ、「アルバイトです」と答える。
「どんな仕事?」
「留守番みたいなものです」
「え、おねえさん番犬?」
「は?」
「番犬みたいに悪い人やっつけちゃうの?」
「いいえ。多分弱いです」
「へー、10代?」
「違います」
「20代?」
「違います。30代です」
「え、いくつ」
「37です」(これは嘘)
「え、見えないね。若く見えるよ。何で?」
「そうですか。化粧をしないからでしょう」
「じゃあ、よかったら、今度うちの店に来てよ」
そういいながら、チラシもアメもくれずに立ち去った。アメをくれるかもと思って、立ち止まったのに。
10代と間違われた事を自慢がましいと思われる不安もあるが、事実だから仕方がない。私は自慢話が大好きなのだ。でも、みっともないのでいつも我慢している。自慢に聞こえないように自慢をしようとして訳のわからない事を言う失敗ばかりしている。2つ謙遜して、自分を落としておけば、1つくらい自慢してもばれないであろうと、巧妙に自慢話をするのだが、えてして駄目な所ばかり記憶されてしまう。自慢が目立たないのだ。やり方を模索しなければ。そういう事に腐心しているので、人の自慢にも敏感だ。自慢が上手い人が好きだ。そういう人になりたい。
純粋に自分の意志で原宿に行くのは初めてだ。今まで人に誘われた用事でしか行った事が無い。実は原宿を差別していたのだ。
練馬区とはいえ東京育ちの私は、原宿は田舎者の行きたがる街と思っていたのだ。頑張り過ぎた格好している人が多いのも気味が悪かった。稀にモデル並の素敵な人もいるが、90%は中途半端で失敗しているへんてこな人に見える。田舎者が集う街のくせに、店員が高飛車で感じが悪かったりもする。私が東京っ子と思う人の代表は中山君だ。特別な格好はしていないし、時折妙なジャージを着ていたりする。何を着ていても新品に見えない。その頑張り感が無い感じが東京っ子ぽい。
田舎者を差別するつもりは無かったが、田舎者によく馬鹿にされた。予備校時代寮に入っていた。豊橋出身でヴィトンのバッグを持っている子がいて、beamsの場所を知らない、というと「あんた本当に東京の人」と言われた。
「私はいつでも行けるから、行かないんだもの。たまに来てはしゃいで行くのは田舎の人でしょ」と言えずに悔しい思いをした。彼女は雑誌に載っているような店は大体知っていた。いつも自慢ばかりしていた。
「今の彼氏は5人目」「高校時代の彼氏と私は学校の憧れだった」「でも、私は結局彼のアクセサリーでしか無かったの」
散々自慢しては私に「あんたが大学に行って、変な男に騙されて捨てられるんじゃないかって、それだけが心配」等と失礼な事を言う。その子は合格発表の時実家に帰っていて、通知が来たら知らせて欲しいと言っていた。私も合格発表を待っていた。本命の学校が2つあったが、1つは補欠、もう1つはまだと言う状況だった。補欠と言っても入れる保証は無い。その頃に彼女の本命の合格通知が来た。余程握りつぶしてやろうかと思ったが、悪者にもなり切れず嫌々知らせた。
私のいた寮は小規模で、寮母さんが甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。いつも自家製のパンを焼いてくれていい人だったが、親戚の子供の合格通知を握りつぶしたことがあると言っていた。寮母さんの焼いたパンを何度も手で触って、選んだ揚げ句食べなかったからだそうだ。「あんな行儀の悪い子、東京に出しちゃだめよ」とからから笑っていた。パンで人生が変わることもあるのだ。
大学へ入ってからはその子とは一度も会わなかった。一度だけ電話で話したら、「私は文が上手いから小説家になる」と言っていた。一緒にいる時は嫌いでは無かった。後になって、人を落として自分を上げる人が沢山いて、私はそういう人の餌食になりやすかった事がわかった。私にとっての田舎者代表はその彼女なのだ。
だから、彼女が好んで行っていた原宿なんて「ケッ」って思っていた。自分が東京以外の所に住んでいたら、わざわざ東京になんて来なかっただろう。「そんなバイタリティ持ち合わせてませんわ」って反発する所もあった。あれから10年以上経つ。原宿はやっぱり田舎者のメッカだと思うが、以前程不愉快な場所では無くなった。馬鹿にされて悔しい思いした反動で、かなり突っ張った自意識を持ったり、逆に自分から人を差別したりしなければならない時期は終わったのかもしれない。
原宿にはまつ毛パーマを掛けに行った。川田希ちゃん、吉田りえちゃん、鈴木砂羽さんと、身の周りのまつ毛パーマをかけている人が口をそろえて「楽だよ」と言う。「みつばち」を終えてから、すぐ行きたかったのだが、モノモライ騒動で無理だったのだ。美しくなるために原宿へ行くのは、ちょっと浮き浮きした。仕上がりも満足。寝ている間にまつ毛クルリンになった。
帰りに変なお兄さんに声を掛けられた。どうも美容サロンのセールスのようだ。アメとチラシを手に持っていた。「学生さん」と言われ、「アルバイトです」と答える。
「どんな仕事?」
「留守番みたいなものです」
「え、おねえさん番犬?」
「は?」
「番犬みたいに悪い人やっつけちゃうの?」
「いいえ。多分弱いです」
「へー、10代?」
「違います」
「20代?」
「違います。30代です」
「え、いくつ」
「37です」(これは嘘)
「え、見えないね。若く見えるよ。何で?」
「そうですか。化粧をしないからでしょう」
「じゃあ、よかったら、今度うちの店に来てよ」
そういいながら、チラシもアメもくれずに立ち去った。アメをくれるかもと思って、立ち止まったのに。
10代と間違われた事を自慢がましいと思われる不安もあるが、事実だから仕方がない。私は自慢話が大好きなのだ。でも、みっともないのでいつも我慢している。自慢に聞こえないように自慢をしようとして訳のわからない事を言う失敗ばかりしている。2つ謙遜して、自分を落としておけば、1つくらい自慢してもばれないであろうと、巧妙に自慢話をするのだが、えてして駄目な所ばかり記憶されてしまう。自慢が目立たないのだ。やり方を模索しなければ。そういう事に腐心しているので、人の自慢にも敏感だ。自慢が上手い人が好きだ。そういう人になりたい。
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