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崖が好き

 6時起床。金沢駅から芦原温泉へ行き、バスで永平寺へ。私は東尋坊に行きたかった。永平寺には全く行きたくなかった。しかし、母は東尋坊に興味が無く永平寺に行きたがった。両方回る事になる。永平寺では何を撮影してもいいが、修行僧にカメラを向ける事だけはやめるように言われた。おかしな事を言うと思っていたが、見て回るうちに合点がいった。数人で庭の草むしりをしている修行僧は繁華街でたむろしている若者と全く変わりが無い。のんびりだべっていたり、かなり楽しそう。僧堂では箱を掲げて歩く練習を、見物客に囲まれながら行っていた。うまくいかないとやりなおし、曲がる時に変わった足運びをするのを繰り返し練習していた。芝居でダンスの練習をしたりするのを思いだす。「あの人は下手だから、いつも注意されているのだろう」などと、母と好き勝手な憶測をしたりした。
 再びバスに乗り東尋坊へ。東尋坊は自殺の名所と言われる断崖絶壁。私は断崖絶壁が堪らなく好きなのだ。以前も一人で伊豆の絶壁を巡った。まず遊覧船に乗る。解説しているおじさんが語尾に高い音階で「ねぇ~」とつける訛りが激しい人だった。「落ちそうで落ちない岩でしてねぇ~、おねぇちゃんと同じでしてねぇ~」などと、母に物まねをして見せていた。するとすぐ後ろで解説していることが分かり、恥ずかしい思いをした。去年は47人自殺したそうだ。「今年はまだ16人でしてねぇ~、一昨日も一人亡くなりましてねぇ~、例年よりちょっと少ないようですねぇ~…」とのことであった。足の痛む母に待って貰い、断崖絶壁の端から端までくまなく歩く。岩から岩へ飛び移ると冷や汗が出てくる。あと一歩踏み出せば確実に死ぬ所に寝そべり、海を覗きこむ。岸壁に打ちつける泡状になった波を見ていると、クラゲにさされて醜くなった顔の事も忘れ爽快な気持ちになる。ハイレグの小林一英さんが、新宿御苑で空を見ていると嫌なこと皆忘れる、と言っていた。私も断崖絶壁を覗きこむと、心が洗われていった。母は崖の端から端を移動して覗き込んでいる私を遠くから見ていて、かなりはらはらしたようだ。15分位と認知していたが母は私が1時間も崖を見ていたと言う。人間の体感とは当てにならない。東尋坊に行けたことで、この旅のノルマは果たした。
 その夜憂鬱な事が発覚した。明日の帰京に備えてチケットを確認すると、帰りの乗車券がないのだ。越後湯沢発東京行きの指定券と、13日高岡駅に下車した際、出さなければならなかった越後湯沢発高岡行きの指定券が手元にあった。どうやら高岡を下車する際、帰りの乗車券を出してしまったようだ。明らかに私の責任だ。いったいどうしたらいいのだろう。

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